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「ですが、だからと言って、あっちにもこっちにも聖女の短剣がある状況は看過できません」
スクートムは熱弁を振るったが、ルーチェはテラスから見える雄大な景色を楽しんでいた。食堂の裏手は崖になっていて、その向こうには山々が、眼下にはゆったりと流れる川が見えた。
「ふふふ、たしかに、そうだね。彼女が竜を倒したのは一度きりなのに、この国だけで聖女の短剣が3本あるんだもんね。君が正しいよ、スクートムくん」
食事が運ばれてきて、ふたりは会話を中断した。豚の腸詰や鴨肉や白いんげん豆を混ぜ合わせて煮込んだ郷土料理だ。
「ルーチェ様、聖女コンフォアってどんな方だったんですか?」
皿の中の料理がふたつの胃袋に収まった頃、スクートムがルーチェへ尋ねた。ルーチェはがっかりしたような顔でワインをひとくち飲んだ。
「君、コンフォアの子孫だろ? 親や祖父母から聞いてないの?」
「高潔で勇敢な少女だったとは聞いてますけど、それ以上のことは、あまり」
「ふうん。伝承では少女って言われてるけど、竜を倒した時、コンフォアは夫と子供のいる主婦だったんだよ」
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