1.聖なる短剣

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ルーチェは目尻を下げ、遠くを見るような目で空を流れる雲を追う。 「突然に神々の加護を与えられ、小さな子供を家に残して竜を倒しに行くハメになって、泣きべそかきながら戦って」 そこまで語ってから、ルーチェは口を閉ざし、考え込むようにテーブルへ視線を落とした。 「どうしました?」 スクートムが尋ねると、ルーチェはようやく顔を上げた。 「あの短剣、やっぱり見なかったことにしたいな」 「偽物の短剣を黙認するんですか?」 スクートムは片手で頭を抱えた。 「他の聖遺物ならともかく、聖女コンフォアの短剣の偽物ですよ? 他の誰でもない、あなたや僕があれを見逃すなんて……」 スクートムが言い終える前に、大通りの方から人々の悲鳴や怒声が聞こえた。 「泥棒!」 「教会から短剣が盗まれたぞ!」 「誰か捕まえて!」 状況を理解するや否や、ルーチェは立ち上がってテーブルの上に乗り、いくらか助走をつけて食堂の屋根へ飛び乗った。大通りの方へ目を向けると、不審な人影がすぐに見つかった。それは小柄な人物で、道ゆく人々を突き飛ばしつつ大通りを疾走している。 「ルーチェ様!」
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