14人が本棚に入れています
本棚に追加
ルーチェは目尻を下げ、遠くを見るような目で空を流れる雲を追う。
「突然に神々の加護を与えられ、小さな子供を家に残して竜を倒しに行くハメになって、泣きべそかきながら戦って」
そこまで語ってから、ルーチェは口を閉ざし、考え込むようにテーブルへ視線を落とした。
「どうしました?」
スクートムが尋ねると、ルーチェはようやく顔を上げた。
「あの短剣、やっぱり見なかったことにしたいな」
「偽物の短剣を黙認するんですか?」
スクートムは片手で頭を抱えた。
「他の聖遺物ならともかく、聖女コンフォアの短剣の偽物ですよ? 他の誰でもない、あなたや僕があれを見逃すなんて……」
スクートムが言い終える前に、大通りの方から人々の悲鳴や怒声が聞こえた。
「泥棒!」
「教会から短剣が盗まれたぞ!」
「誰か捕まえて!」
状況を理解するや否や、ルーチェは立ち上がってテーブルの上に乗り、いくらか助走をつけて食堂の屋根へ飛び乗った。大通りの方へ目を向けると、不審な人影がすぐに見つかった。それは小柄な人物で、道ゆく人々を突き飛ばしつつ大通りを疾走している。
「ルーチェ様!」
最初のコメントを投稿しよう!