1.聖なる短剣

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たしなめるようなスクートムの声を聞き流し、ルーチェは食堂の屋根を駆け、隣の建物の屋根へ飛び移る。居酒屋、宿屋、薬屋……と、人様の家の屋根の上を次々と走り抜け、あっという間に泥棒に追いつく。 「ねえ、その短剣、どうするつもり?」 泥棒と並走しながらルーチェが問う。屋根の上を身軽に駆ける少女の姿を見て、泥棒はぎょっとして、転倒した。 土煙を上げて派手に転んだ泥棒は、年端もゆかぬ少年だった。貧しい身なりをしていて、とても痩せている。 ルーチェは屋根から飛び降り、地面に倒れている少年の細腕をひねり上げると、彼の手から黄金の短剣を奪った。 「返せよ! オレはそれで悪魔をやっつけなきゃいけないんだから!」 少年は暴れ、ルーチェの手を振り払った。 「悪魔をやっつける?」  手の中の短剣を「立派だなあ」としげしげ眺めながらルーチェは尋ねる。少年は悔しそうに彼女を睨め上げた。 「オレの兄ちゃんが悪魔に憑かれちゃったんだよ! 聖女の短剣なら悪魔を倒せるだろ!」 「これは偽物だ。悪魔を祓うことはできないよ。本当に悪魔のしわざなら、まずは司祭に相談するんだね」
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