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「相談したけど、前金を持って来いって追い返されたんだ!」
少年の悲痛な叫びを聞いて、ルーチェは眉をひそめた。彼が嘘を言っているようには見えない。
「おおい、君!」
背後から声をかけられ、ルーチェは振り返った。悠然と歩いてくるのは教会の老司祭だ。若い聖職者や僧兵を何人かつれている。
「……くたばれ、クソ司祭」
泥棒の少年は乱暴に吐き捨て、ルーチェが止める間もなく細い路地へと姿を消した。
「やあやあ、短剣を取り返してくれてありがとう」
老司祭は笑顔でルーチェの手を握り、その手から黄金の短剣をむしり取った。
「コソ泥に逃げられたのは残念だが、心から感謝するよ。君の旅路に神々のご加護があらんことを」
感謝を述べると、老司祭たちはさっさと踵を返した。彼らと入れ替わるように、困り顔のスクートムが現れる。
「ルーチェ様、あまり目立たないでください」
「ごめん。戻ってデザート食べようか」
巡礼装束についたホコリを手で払い落としながらルーチェは詫びた。すると、スクートムは申し訳なさそうに切り出した。
「すみません、ルーチェ様の分も食べて精算を済ませて来ました」
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