第七章 帰りたい場所

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「……一週間も眠ってたんだぞ」    パイプ椅子に腰掛けて、風間は言った。優しい声だった。胸にじんと沁みる。   「……なんで……」 「それは何に対するなんでなんだよ」 「……俺、あんたに何も言わないで出てきたはずだぜ。そりゃあ、武器と弾薬は失敬したけどよ。まさかそれで気付いたのか?」 「なわけないだろ。お前じゃねぇんだから」    風間は胸ポケットから携帯電話を取り出した。   「これの位置情報」    そんな単純なことで? と鶫は呆気に取られた。   「……俺、おっさんに監視されてんのか」 「人聞きの悪いこと言うなよ。何も普段から監視してるわけじゃねぇ。ここんとこ、お前の様子がおかしかったからな。突然断捨離始めたり、預金も急激に減ってたし。色々と入り用だったんだろ」 「えっ、口座も監視されてんの」 「当たり前だろ。お前の給料、オレが入金してるんだから」 「俺のプライバシーは……?」 「んなもん二の次だ。お前、オレが見つけてやらなきゃとっくに……」    風間は目頭を押さえ、溜め息を吐いた。   「……嘘だろ、泣いてんの」 「うっせぇバカ。マジで生きた心地がしなかったんだよ。雪に埋もれて、血塗れでぶっ倒れてるお前見た時、こりゃ死んでんなと思ったよ」 「ほっといたら死んでたぜ」 「急いであいつ……さっきの女医な。診てもらって……傷は塞がったのに、お前全然起きねぇし……」    風間は再び溜め息を漏らす。喉が震えていた。   「……悪かったよ、おっさん」 「全くだ。心配かけやがって」 「治療費いくらかかったんだ? 俺、がんばって返すからよ。腎臓一個じゃ足りねぇか?」 「三千万」    法外な値段に、鶫は目玉が飛び出しそうになった。   「お、俺の臓器全部でも足りないんじゃ……?」 「別に、これくらい必要経費だから気にすんな」 「でも」 「お前が生きて帰ってきただけで、オレは十分なんだよ」    風間は声を震わせる。決して涙は見せないが、鼻の頭が赤くなっていた。   「……おっさん。キスしてくれ」 「……お前な。曲がりなりにも病院だぞ」 「んなこと気にするタマかよ。いいじゃん。どうせ二人なんだし」 「……」 「ねーぇ」    よく知っている味がした。慣れ親しんだ、煙草の苦味。これが風間の味だ。一度失ったつもりでいたのに、結局またここへ戻ってきてしまった。   「っ、おい」 「あぁ? キスっつったらディープの方だろ。あんたも口開けろよ」 「……止まれなくなるぞ」 「誰が止めてくれっつったよ」    鶫は風間の首に手を回した。白い病室で、二人の男の影が重なる。
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