第一章 プロローグ

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「とりあえず今日はお前の適性を見る。足手纏いになるようなら即殺す」 「おーこわ」 「怖いと思ってる顔じゃねぇな」    都内雑居ビルの屋上にて、風間はスナイパーライフルを組み立てる。人殺しのための機械が、白日の下に堂々と晒される。   「俺が撃つのか?」 「経験あるか?」 「あるわけねぇじゃん」 「もし撃ち漏らしたら、分かってるな」 「無茶言うなよ」    風間は拳銃も狙撃銃も何丁か所持している。その中でも今日は特に愛用のものを選んで持ってきた。軍の払い下げ品で少々型落ちではあるが、扱いやすさはナンバーワンだ。   「照準は合わせてやるから、お前が引き金を引くんだ」 「できっかな」 「やるんだよ」    風間はスコープを覗きながらライフルの高さや向きを微調整する。今日のターゲットはとある会社の御曹司だ。情報によれば、隣のビルの喫茶店で午後のティータイムを過ごすことが日課になっているそうだが、果たして今日も来るだろうか。   「……おっさん」    風間の隣で黙って銃の扱いを見ていた鶫が、おもむろに口を開いた。   「逃げた方がいい。下から誰か来るぜ」 「なんでそんなことが分かるんだ」 「分かっちまうんだからしょうがねぇだろ」 「ビルは閉鎖されてるはずだぞ」 「一人……いや、二人か。階段を上がってくるぜ」    鶫が真剣な表情で囁く。   「どうすんだよ、おっさん」    *    スーツ姿の男が二人、拳銃を構えてスチールドアを蹴破った。   「目標C! 空振りです!」  男の一人が無線機に向かって話す。   「クソッ、またかよ! ガセネタ掴まされたんじゃねぇか?」 「ガセならそれでいいです。次の現場に急ぎましょう」 「あ~あ、坊ちゃんの護衛も楽じゃないねぇ」    スーツ姿の男二人は屋上を一周して屋内へ戻った。   「……」 「……」 「……っぶねぇ~~。しくるとこだった」    風間は安堵の息を漏らす。  風間と鶫は、間一髪で隣のビルに飛び移っていた。   「警察ならまだいいが、あんな厄介そうなのを雇ってたなんてな。誰が情報洩らしたんだ」 「しっ。また来る」    鶫が言い、風間は再び息を潜める。  スチールドアが再び蹴破られた。スーツ姿の男が拳銃を構えて周囲を見渡す。   「……やっぱいねぇか。ったく、無駄足もいいとこだ」  そうぼやいて、男は去っていった。    しばらく、風間と鶫は飛び移ったビルの屋上に身を潜めた。   「……」 「……」 「……たぶん、もう大丈夫だぜ」    鶫に言われ、風間はいよいよ大きく息を吐いた。どっと疲れが出て、仰向けに寝転んだ。白い雲に覆われていた太陽がゆっくりと姿を現す。それが眩しくて、風間は目元に手をかざした。   「お前、マジで何者なんだよ」 「さぁな。呪われた犬畜生だ」 「犬よりも勘がいいぜ。どこで習った。どうして分かった」 「だから、自然と分かるんだよ。習うようなもんじゃねぇだろ」    こいつは使える、と風間はほくそ笑んだ。思いがけず幸運な拾い物をした。
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