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「とりあえず今日はお前の適性を見る。足手纏いになるようなら即殺す」
「おーこわ」
「怖いと思ってる顔じゃねぇな」
都内雑居ビルの屋上にて、風間はスナイパーライフルを組み立てる。人殺しのための機械が、白日の下に堂々と晒される。
「俺が撃つのか?」
「経験あるか?」
「あるわけねぇじゃん」
「もし撃ち漏らしたら、分かってるな」
「無茶言うなよ」
風間は拳銃も狙撃銃も何丁か所持している。その中でも今日は特に愛用のものを選んで持ってきた。軍の払い下げ品で少々型落ちではあるが、扱いやすさはナンバーワンだ。
「照準は合わせてやるから、お前が引き金を引くんだ」
「できっかな」
「やるんだよ」
風間はスコープを覗きながらライフルの高さや向きを微調整する。今日のターゲットはとある会社の御曹司だ。情報によれば、隣のビルの喫茶店で午後のティータイムを過ごすことが日課になっているそうだが、果たして今日も来るだろうか。
「……おっさん」
風間の隣で黙って銃の扱いを見ていた鶫が、おもむろに口を開いた。
「逃げた方がいい。下から誰か来るぜ」
「なんでそんなことが分かるんだ」
「分かっちまうんだからしょうがねぇだろ」
「ビルは閉鎖されてるはずだぞ」
「一人……いや、二人か。階段を上がってくるぜ」
鶫が真剣な表情で囁く。
「どうすんだよ、おっさん」
*
スーツ姿の男が二人、拳銃を構えてスチールドアを蹴破った。
「目標C! 空振りです!」
男の一人が無線機に向かって話す。
「クソッ、またかよ! ガセネタ掴まされたんじゃねぇか?」
「ガセならそれでいいです。次の現場に急ぎましょう」
「あ~あ、坊ちゃんの護衛も楽じゃないねぇ」
スーツ姿の男二人は屋上を一周して屋内へ戻った。
「……」
「……」
「……っぶねぇ~~。しくるとこだった」
風間は安堵の息を漏らす。
風間と鶫は、間一髪で隣のビルに飛び移っていた。
「警察ならまだいいが、あんな厄介そうなのを雇ってたなんてな。誰が情報洩らしたんだ」
「しっ。また来る」
鶫が言い、風間は再び息を潜める。
スチールドアが再び蹴破られた。スーツ姿の男が拳銃を構えて周囲を見渡す。
「……やっぱいねぇか。ったく、無駄足もいいとこだ」
そうぼやいて、男は去っていった。
しばらく、風間と鶫は飛び移ったビルの屋上に身を潜めた。
「……」
「……」
「……たぶん、もう大丈夫だぜ」
鶫に言われ、風間はいよいよ大きく息を吐いた。どっと疲れが出て、仰向けに寝転んだ。白い雲に覆われていた太陽がゆっくりと姿を現す。それが眩しくて、風間は目元に手をかざした。
「お前、マジで何者なんだよ」
「さぁな。呪われた犬畜生だ」
「犬よりも勘がいいぜ。どこで習った。どうして分かった」
「だから、自然と分かるんだよ。習うようなもんじゃねぇだろ」
こいつは使える、と風間はほくそ笑んだ。思いがけず幸運な拾い物をした。
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