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鶫の第六感は目を見張るものがある。身体能力も申し分ない。品の良さはまるで感じられないが、案外頭は回るようだ。あとは銃の扱い方さえマスターさせれば、風間の手足となってうまく働いてくれるかもしれない。
「つーわけで、これからお前をビシバシ鍛えるからな」
「おー? おっさん、やっと俺を飼う決心がついたか」
「人聞きの悪いことを言うな。オレとお前でバディを組もうっつってんだ。二人でがっぽり稼ごうぜ――って、人の話を聞け!」
「聞いてるっつーの。年寄りは話が長くていけねぇ」
「そこまで年寄りじゃねぇわ!」
ここは風間がいくつか所有しているセーフハウスのうちの一つ、地下倉庫である。薄暗くてカビ臭いが、騒音対策はばっちりだ。
「で、ここでヤんの? そーいう趣味?」
「誰がヤるか! お前にも銃を使えるようになってもらわなきゃ困るんだよ。じゃなきゃ仕事にならねぇ」
まずは拳銃の構え方からだ。風間は鶫に一から基礎を叩き込んだ。教えられたことを鶫は一発で呑み込んだ。
ピストルがある程度扱えるようになったら、次はライフルの撃ち方を仕込む。これも鶫はすぐに自分のものにした。
わざわざ山へ行って、鹿や猪を狩った。目がいいからか、第六感が冴え渡っているのか、鶫は獲物を見つけるのが異常に上手かった。銃の弾道も正確で、すぐに屍の山が積み上がった。
ただし、羆と対峙した際は一目散に逃げた。勝てないと判断した敵からは即座に撤退する。そんな勇気も時には必要である。
近接戦に必要な体術と刃物の使い方も教えたが、鶫にはほとんど必要のないことであった。刀の扱いには随分慣れているようだったし、体術に関しては風間を上回っていた。
「っしゃ、また一本! おっさん、もう三回死んだぜ」
「いちいち得意がるな。嫌味か!」
コンクリート打ちっ放しの地下倉庫で、鶫は今日も訓練に励む。というか、どちらかといえば風間の修行になっている。
「くっそ、十年前ならオレだってなぁ」
「負け惜しみすんなよ、おっさん」
「はいはい、オレの負けですよ。ったく、そろそろ歳か?」
「がんばったご褒美にうめーもん食わせろよ。俺ピザがいい! ピザ取れ!」
「ピザくらいよく食ってるだろ」
じゃれ付く鶫を、風間は軽くいなす。
「ご褒美は、最初の仕事を成功させてからだ」
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