第一章 プロローグ

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 鶫の第六感は目を見張るものがある。身体能力も申し分ない。品の良さはまるで感じられないが、案外頭は回るようだ。あとは銃の扱い方さえマスターさせれば、風間の手足となってうまく働いてくれるかもしれない。   「つーわけで、これからお前をビシバシ鍛えるからな」 「おー? おっさん、やっと俺を飼う決心がついたか」 「人聞きの悪いことを言うな。オレとお前でバディを組もうっつってんだ。二人でがっぽり稼ごうぜ――って、人の話を聞け!」 「聞いてるっつーの。年寄りは話が長くていけねぇ」 「そこまで年寄りじゃねぇわ!」    ここは風間がいくつか所有しているセーフハウスのうちの一つ、地下倉庫である。薄暗くてカビ臭いが、騒音対策はばっちりだ。   「で、ここでヤんの? そーいう趣味?」 「誰がヤるか! お前にも銃を使えるようになってもらわなきゃ困るんだよ。じゃなきゃ仕事にならねぇ」    まずは拳銃の構え方からだ。風間は鶫に一から基礎を叩き込んだ。教えられたことを鶫は一発で呑み込んだ。  ピストルがある程度扱えるようになったら、次はライフルの撃ち方を仕込む。これも鶫はすぐに自分のものにした。  わざわざ山へ行って、鹿や猪を狩った。目がいいからか、第六感が冴え渡っているのか、鶫は獲物を見つけるのが異常に上手かった。銃の弾道も正確で、すぐに屍の山が積み上がった。  ただし、羆と対峙した際は一目散に逃げた。勝てないと判断した敵からは即座に撤退する。そんな勇気も時には必要である。  近接戦に必要な体術と刃物の使い方も教えたが、鶫にはほとんど必要のないことであった。刀の扱いには随分慣れているようだったし、体術に関しては風間を上回っていた。   「っしゃ、また一本! おっさん、もう三回死んだぜ」 「いちいち得意がるな。嫌味か!」    コンクリート打ちっ放しの地下倉庫で、鶫は今日も訓練に励む。というか、どちらかといえば風間の修行になっている。   「くっそ、十年前ならオレだってなぁ」 「負け惜しみすんなよ、おっさん」 「はいはい、オレの負けですよ。ったく、そろそろ歳か?」 「がんばったご褒美にうめーもん食わせろよ。俺ピザがいい! ピザ取れ!」 「ピザくらいよく食ってるだろ」    じゃれ付く鶫を、風間は軽くいなす。   「ご褒美は、最初の仕事を成功させてからだ」
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