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大きな案件が舞い込んだ。とある政党の幹部暗殺。風間一人ならば他の殺し屋と手を組みたいところだが、鶫がいるなら話は別だ。二人で任務を遂行して、報酬を丸ごと全部頂いてしまおうというわけである。
数か月間準備を重ねた。そして今夜が決行の時。ホテルの一室で行われる秘密の会合に鶫が潜り込み、隙を見て暗殺するという手筈だった。
「……で、何だこの惨状は」
「……」
スタッフとしてホテルに潜入していた風間が目にしたのは、血塗れのスイートルーム。十余の遺体。死体の山の中、幽霊のように佇む男。研ぎ澄まされた刃の切っ先から滴る鮮血。
「……ちゃんと殺したぜ?」
「バカか、こんなぐっちゃぐちゃにしやがって! しかも……あーあー、殺さなくていいやつまで殺っちまってるよ」
「しょーがねーだろ。あいつ、なかなか一人にならねーんだよ」
「焦らず機を待てとあれほど……まぁいい。これくらいなら何とかなる」
風間は掃除屋に電話をかける。こんな時のために、一応話は通しておいたのだ。
「お前、それは返り血か?」
「……どれ」
「ほら、顔の」
「ああ、これ……」
鶫は頬を拭う。綺麗な顔が血で染まっていた。
「こーいうのはなかなか避けらんねぇ。刺すと噴き出てくるからな」
「当たり前だろ。避けようなんて考えるな」
「だってジジイの血だぜ? 嫌だよ」
ふと何を思ったか、鶫は風間の胸倉を掴んだ。
「おい、オレまで汚れ――」
唇に血の味を覚えた。鶫は挑発的な笑みを湛える。
「どう?」
「ジジイの血だろ。クソまじぃ」
「ふは、それもそーだ」
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