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「……マジでいいのか?」
この期に及んで、風間はまだ躊躇する。鶫は、大股を開いた間抜けな恰好で、腹立ち紛れに舌打ちをした。
「散々人のケツ弄くっといて、そりゃねぇだろ」
「それもそうなんだが……指とこれじゃ負担が全然違うだろ」
「うっせぇなぁ。俺がいいっつってんだからいいんだよ。もう、早く……」
鶫は、脚を風間の腰に巻き付けて抱き寄せた。
「早く、あんたにめちゃくちゃにされてぇ」
「……っ」
立派な喉仏が、大きく上下した。
「ぅあ、ぁ゛、っぐ……」
「悪い。苦しいか」
「ちがっ、ぁ、はいって、く……はいって、くる、ぅっ」
男を受け入れるのはいつぶりだろう。少なくとも一週間、いや、二週間ぶりだろうか。もっとかもしれない。
今回の襲撃事件を機に風間の元を去るつもりでいたから、回数も頻度も減っていた。無意味な未練が残ってはいけない、と無意識のうちに考えていたことに、鶫は今更になって気が付いた。
「キツいな……」
風間は苦しそうに唸る。
「もう少し力抜けるか?」
濡れた睫毛や、左瞼の傷痕に、宥めるようなキスを落とされる。優しい唇に愛撫されて、くすぐったさが心地いい。甘やかされていると実感し、心が解けていく。しかし、処女のように閉じたそこが開くには、まだ時間が必要だった。
「……やっぱり一旦抜くか」
「やっ、ぬくな」
「お前もキツいだろ」
鶫は大きく胸を喘がせた。
確かに、苦しい。痛い。辛い。繊細な場所を拓かれ、内臓を直に触れられて、何も感じないはずがない。ましてや、腹に穴が空き、一週間昏睡状態だった身だ。性行為なんかしていい体ではない。正直かなり無理をしている。けれど。
「やだ、ぁ、ぬくな……っ」
鶫は風間の胸倉を掴んで引き寄せた。
「痛くてもいいからっ……あんたがほしいんだ……っ」
多少の苦痛なんか問題にならない。それらを容易く塗り替えるほど、風間が鶫に与える熱は甘美であった。
真ん中にぽっかりと空いた虚ろな穴を、風間はぴったりと埋めてくれる。寸分の隙間もなくぴったりハマって、もうこれ以上ないというほど満たされる。
甘美な痺れに酔いしれて、鶫はぽろぽろと涙を零した。まるで真珠のような、透き通った大粒の涙だった。風間はぎょっとした顔をする。
「なっ、おい……やっぱ傷に響くか? 抜くか?」
「ちげぇよ、うれしくて……」
鶫は泣きながら笑った。滲む視界に風間の驚いた顔が見えて、それがなんだかおかしくて、鶫は笑いながら泣いた。喜びで溢れる涙もあるということを、今初めて知った。
「……俺、やっぱあんたじゃなきゃだめみてぇ」
「っ……」
「……あんたのこと、俺の帰る場所にしてもいいか?」
「……」
鶫の太腿を抱えていた、風間の手に力が入る。爪が食い込み、鶫は眉を寄せた。
「いてーよ」
「っ……悪い」
「怒ってんの」
「なんで」
「……俺が変なこと言ったから」
「……」
一回り膨張した熱杭で、奥を穿たれた。鶫は声を裏返し、身悶える。
「ひっ……!? なっ、んだよ、急にっ……!」
「うるせぇ。こっちの気も知らねぇで、このクソガキ」
「なっ、やっぱ怒ってんじゃん!?」
「オレはなぁ! オレは……!」
唇の届きそうな距離まで、風間の顔が近付いた。出会った頃よりも皺の増えた目元が赤く潤んでいた。
「オレは、ずっと前からそのつもりだったよ」
唇がそっと重なった。触れるだけですぐ離れてしまって、それが無性に切ない。鶫が唇を尖らせて追いかけると、もう一度優しく重なった。
「泣くなよ、おっさん」
「泣いてんのはお前だろ!」
「ふは、それもそーか。しょっぺぇキス」
「帰る場所でも何でもいいけどよ。二度と勝手にいなくなるんじゃねぇぞ。今回はマジで寿命が縮んだ」
「ん……おっさん、俺のこと大好きだもんな」
「ああ、そうだな。愛してるよ」
「……っ」
胸にじんわりと沁み渡る、鶫の大好きな低い声が囁いた。途端に全身の毛が逆立って、鼓動が一足飛びに駆け上がって、胎の奥がぞくぞくと疼いた。ひとりでに痙攣して締め付けて、男の形を敏感に感じ取ってしまう。
「まさか、今のでイッたのか」
「ちがっ、いまのは」
「かわいいな、鶫」
「っっ!?」
ビクビクッ、と体が勝手に痙攣する。甘えるように中が締まって、男のものを締め付けて、それでまた快感を得るという、変なループに入った。
「ひっ、あっ、やだやだ、あぁっ」
「また軽くイッたろ。感じやすくてかわいい。鶫」
「あっ、んンっ、やめ、だめっ」
「名前言われるのがいいのか? つ~ぐ~み。鶫」
「ちがっ、て、やめ、……っ」
「愛してるぜ、鶫。愛してる」
「やっ、も……あんたばっかずりぃ!」
鶫は、腹に気合を入れて声を張り上げた。そうしなければ、ふにゃふにゃと甘ったれた声ばかりが漏れてしまう。緩慢な動きだけで何度も絶頂寸前まで引き上げられて、悔しいったらありゃしない。
「おれにも名前呼ばせろ」
「呼べばいいだろ」
「じゃなくて、本当の名前だよ」
「……」
風間は数度瞬きをして、鶫にそっと耳打ちした。
「――――」
初めて聞くその名前は、おっさんにはまるで不釣り合いな、明るく爽やかな響きだった。鶫は思わず噴き出した。
「何笑ってやがる。失礼な」
「だってよぉ……ふふっ」
鶫は嬉しくなって風間に抱きついた。うまく力の入らない腕で、ぎゅうっと力いっぱい抱きしめた。
「おっさんは、やっぱおっさんがいいな」
「まぁ、マジでもうそういう歳だしな」
「渋くてイケてると思うぜ」
「そうかよ」
風間は鶫をしっかりと抱きかかえた。激しく奥を突き上げられると、傷口が今にも開きそうになる。それがちょっとだけ痛くて、でも嬉しくて、気持ちがいい。鶫は風間にしがみつき、全身でその熱を感じた。
「……好きだぜ、おっさん」
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