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第八章 疑惑
風間は絶望した。鶫に浮気の痕跡を見つけてしまった。鶫の白い首筋に、付けた覚えのないキスマークが、煽りたてるように嗤っていた。
これは確実に浮気だ。おそらく、胸元などの見える位置に残すことは、鶫が許さなかったのだろう。だから、浮気相手は仕方なく、鶫にバレにくい位置にキスマークを残したのだ。
いや、あえてなのだろうか。鶫があえて浮気相手にキスマークを付けさせて、風間を挑発しているという可能性も十分ある。考え始めると疑惑は膨らむ一方だ。何を信用したらいいのか分からなくなってきた。
「……おっさん? しねぇの?」
ベッドへうつ伏せになっていた鶫は、肩越しに風間を催促した。艶めかしく腰を揺らして、男を誘惑する。その仕草に、鶫への疑惑はさらに膨らんだ。何も知らないような顔をして、一体何人の男を誑かしているのやら。
「……ちょっと今日調子悪ぃわ」
「マジかよ」
あれこれ考えていたら萎えてしまった。鶫は残念そうに、風間の股間に顔を近付ける。
「あ~あ。いつもガチガチにかてぇのにな。それがおっさんの取り柄なのに」
普段通りの何気ない発言も、浮気相手と比べられているようで腹立たしい。
「硬ぇだけかよ」
「ん~? あと、なげぇのもいいな。奥によく当たる」
「そうかよ」
「でも遅漏だよな」
「……は?」
「最近そんな感じだろ。やっぱおっさんだから? 感じにくい?」
ふう、と鶫は息を吹きかけた。その微弱な刺激に反応しかけたが、こうまで言われて気分も萎えてしまい、風間は急いで下着を着けた。
「んだよ、しゃぶってやろうと思ったのに」
「いい。もう寝るわ」
「ふぅん」
風間は布団に包まった。同時に、鶫はベッドを下りる。
「んじゃ俺抜いてくるわ」
「……トイレでか?」
「まーな。せっかくケツ準備したのに、もったいねぇけど」
「……」
風間は鶫を呼び止めた。
「やっぱり抱いてやる」
「おお? 無理しなくてもいいぜ、おっさん」
「せっかく準備したのにもったいねぇだろ」
「ふは、それ今俺が言ったやつじゃん」
鶫は得意満面な笑みを湛えて、ベッドに飛び込んだ。最初からこういう作戦だったのだろうか。風間はまんまと乗せられた。
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