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鶫はまだ二十歳そこそこの若者だ。中年と呼ばれる歳に差し掛かろうとしている風間と比べ、性欲が段違いに強いのは当然である。風間なんて、所詮硬くて長いだけで、遅いし、弾数も少ないし、そんな生温いセックスでは鶫は満足できないのだろう。
だから浮気を? 持て余した性欲に疼く体を、どこの馬の骨とも知らぬ男に慰めてもらっているというのか。そんなの、考えただけではらわたが煮えくり返る。たとえ今の性生活に不満があるからといって、浮気なんて酷い裏切りではないか。
いや、しかしまだ焦る段階ではない。風間は自らを落ち着かせる。確かに首筋に痕を見つけてしまったが、それがキスマークとは限らない。ただ単に蚊に刺されたのかもしれない。……蚊の季節ではないが。
決定的な証拠を押さえない限り、鶫の不貞は疑惑止まりだ。それが本当に事実かどうか、判断を下すのはまだ早計である。
そう思っていたのだが。
この度、風間はついに決定的な証拠を掴んでしまった。確定的な、動かぬ証拠だ。どこの馬の骨とも知らぬ男と共にホテルへ消えていく鶫の姿を捉えてしまった。
悲しみより先に激しい怒りを覚えた。フロントスタッフに八つ当たりしたくなるのをぐっと堪えて部屋番号を聞き出し、エレベーターなんか待っていられず一足飛びに階段を駆け上がった。
スタッフを装ってチャイムを鳴らすと、間の抜けた面をした間抜けな男が、簡単にドアを開けた。「えっ?」と目を瞬かせた半裸の男を、風間は容赦なく廊下へ引きずり出し、無理やり部屋へ押し入った。
「……おっさん……?」
既にバスローブに着替えていた鶫は、目を丸くする。
「お前、よくも……」
「おい! 何なんだよテメェ! ケーサツ呼ぶぞ! ケーサツ!」
地を這うような風間の声を掻き消して、廊下に放り出された男が喚く。風間はうんざりしながらも、男の荷物と脱ぎ散らかされた服をまとめて、廊下に放ってやった。ついでに札束を投げてやると、男は途端に大人しくなった。
「さて、邪魔者はいなくなったな」
「おっさん……? なんで……?」
「それはこっちの台詞だ。お前、何考えてやがる」
「なにって……?」
なおもしらばっくれる鶫を張り倒し、両手首を押さえ付けて組み敷いた。
鶫の黒い瞳が潤み、風間の良心が痛む。今のは確実に暴力だ。愛する者に暴力を振るうなんて。しかしこれくらいの仕返しは許されるはずだ。風間の方がよっぽど傷付いたのだから。
「言い訳があるなら聞いてやる」
「言い訳って、何のだよ」
「さっきの男は誰だ」
「誰って……誰でもねぇよ」
「……っ」
とうとう怒りが沸点に達した。風間は鶫の首に手をかけた。青年らしい、太くて硬い、筋肉質な首だが、風間の手に収まらないほどではない。首を絞めながらキスをすると、唾を飲み込む喉の動きや、苦しそうな喘ぎや、頸動脈の拍動が、掌にはっきりと伝わってくる。
「……おっさんにはもう飽きたのかよ」
耽溺した表情で虚ろな視線を彷徨わせる鶫に、風間はひとり語りかけた。
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