第九章 幸福の在り処

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「……で、なんでこうなるんだ!?」    薄明かりのベッドルームにて、風間は鶫に跨られていた。鶫はさも当然というように、居丈高に風間を見下ろした。   「なんでって、そういう流れだったろ」 「どこがだよ? 安眠の流れだったろ!」 「俺がそういう気分なんだよ。付き合え、おっさん」 「オレは寝たいんだが……」 「つれねぇなぁ。どうせすぐその気になるくせに」 「っ……お前、ずるいぞ」    鶫は風間の胸に手をついて、くいくいと腰を動かした。間に布を何枚も挟んでいるのに、敏感なところが擦れて勝手に反応する。   「はっ、あ……感じるぜ、あんたの」 「言うなよ」 「なぁ、ン……俺を抱けよ。あんたに抱かれたいんだ。そういう夢を見たからさ」 「夢って……」 「エロい夢だよ。男なら分かるだろ? たまんねぇんだ」 「……」    鶫は、いっそ必死なくらいに風間を誘惑する。普段の飄々とした余裕が感じられない。怖い夢を見た子供が寝ることを恐れて、駄々を捏ねているようだった。  実際、鶫が見たのは淫らな夢などではないだろう。きっと恐ろしい悪夢だ。風間には到底想像も及ばない、恐ろしい悪夢。そうでなければ、冷や汗を流すほど魘されていた理由が付けられない。  風間は、鶫のスウェットの裾に手を滑り込ませ、細く引き締まったウエストを撫でた。   「いいぜ。抱いてやる」 「めちゃくちゃにしてくれていいぜ。特別激しくされてぇ」 「エロい夢なんざ綺麗さっぱり忘れるくらい、めちゃくちゃ優しく抱いてやるよ」 「ふは、んなのいつものセックスじゃねぇか」  鶫は揶揄うように言って、しかし嬉しそうに唇を綻ばせた。
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