96人が本棚に入れています
本棚に追加
「あっ!」
鶫の高く掠れた声が響く。
「あ、あ、あっ」
「苦しいか?」
苦しげに眉を寄せて唇を噛みしめながら、鶫は首を横に振る。所在なげに両手を彷徨わせて枕を掴み、顔を押し付けて抱きしめた。くぐもった声が僅かに漏れ聞こえる。
「おいこら、なんで隠すんだ。顔見てしたいんじゃなかったのか」
鶫は首を縦に振る。
「じゃあなんでだよ。オレもお前の顔見てぇんだけど」
鶫は首を横に振る。
「何がダメなんだ。恥ずかしいのか?」
「っ、だって、こんなの……」
「別に、えげつねぇアヘ顔晒されたところで今更驚きゃしねぇよ」
「ち、ちげぇ、し……」
「ほら、顔見せろ」
「ぁ、や、……っ」
風間は、鶫の抱きしめていた枕を奪い取った。
果たして鶫がどんな表情で善がっているのか。とろとろに蕩けたいやらしい顔か。恥じらいを残したあどけない顔だろうか。と密かに期待をしながら枕をどかした。
それは涙だった。涙でべしょべしょに濡れていた。それでいていやらしく蕩けてもいるし、あどけなく火照ってもいる。風間は狼狽えた。
「おま、なん……な、なんで、泣いて……」
「知らねぇ、かってに……勝手に出てくる」
鶫はごしごしと瞼を擦り、ぐすぐすと鼻を啜る。
「バカ、痛めるぞ」
風間は鶫の涙を拭った。舐めると塩辛かった。
「ぅ……やだおれ、こんな……」
「嫌なのか」
「だって……こんなんなるの、初めてだ」
鶫は掠れた声で呟く。
「……あんたのが中にあって……胎ン中、すんげぇ熱くて……なのに、全然いやじゃねぇんだ。こんなの変だ。なんで……?」
鶫は黒い瞳を潤ませ、縋るように手を伸ばす。風間はその手をしかと握った。
「おっさん、あんた何者なんだ? 俺の特別な何かなのか?」
「……さぁな。でもお前、気持ちいいならそう言ってくれねぇと分からねぇよ」
「気持ちいい?」
「胎ン中、熱いんだろ?」
「う、ん……熱い」
「それで?」
「な、んか、じんじんして……」
「それから?」
「奥が……ぁ、おく、が……っ」
「気持ちいいか」
「っ!? やだっ! おっさんとまれ! とまれって!」
「気持ちいいんじゃないのか」
「やだっ、いやっ、おれ変だ! おかしい! こんな、こんなの……あぁっ、いやだ、変になる!」
枕でなく、鶫は風間にしがみついた。脚を腰に絡め、腕を背中に回し、爪を立ててしがみついた。
「ひっ、あぁ、いやだ! 変だおれ、おかし、おかしくなる、っ!」
「いいんだよ。セックスってのはそういうもんだろ」
「せ、くす? これが?」
「違うか?」
「そ、なの……? わかんね、けど……」
鶫は、甘えるように風間の頬に唇をすり寄せる。温かく柔らかい唇が、風間の頬を甘く食んだ。
「……きもちー、かも。風間さん」
甘く掠れた吐息まじりの囁き声。その破壊力たるや。風間は心臓を撃ち抜かれたように感じた。一発の弾丸が正確な弾道で心臓を貫く。
「ァあっ!? あっ、ァ、やだ、やっ、はげし、ゃ、つよいっ!」
「そのままイッちまえ」
「あ、ぁあ゛、いや、ぁ、いやぁ゛、……――っっ!!」
ぎゅうう、と鶫は小さく縮こまる。風間にしがみついて、ビクビクと痙攣する。
「ぅあ、ぁ、でて、でてる、なか……」
「悪い」
「すげ、あつ……きもちー……」
鶫は譫言のように呟くなり、白目を剥いてぶっ倒れ、電池が切れたように深い眠りについた。
最初のコメントを投稿しよう!