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うんと優しくしてやる、なんて豪語していたくせに、結局いつも通りのセックスになった。いつも通りの、幸福なセックス。
優位に動ける騎乗位も、獣のように犯される後背位も好きだが、やっぱり正常位が一番安心するし気持ちいい、と鶫は思った。しっとりと汗ばんだ肌が、濡れて擦れて密着する。
言葉にしなくても、鶫の視線だけで言いたいことを汲み取って、キスをしてくれる。激しく舌を絡めるのではない、小鳥が啄むようなささやかなキス。そうしながら奥を優しく捏ねられるのが、鶫は最高に好きだった。
鶫がぎゅっとしがみつくと、風間も鶫を抱きしめてくれる。もう随分とデカい男に育ってしまったのに、風間に抱かれていると子供に戻ったような心地になる。ついつい甘えてしまうし、風間も鶫を甘やかしてくれる。甘やかされている、と実感する度に奥が濡れる。
「……おっさん、おっさん」
「なんだよ」
「……いいのかな、おれ」
「なにが」
「……こんなにさ、幸せで」
風間の双眸が鶫を捉える。その瞳いっぱいに映る自分の姿を、鶫は見る。
「オレも幸せだよ」
「……くっせぇセリフ」
「誰だって幸せになる権利くらいあるだろ。人間なんだから」
「……人間、ね……」
鶫を対等な“ひと”として扱ったのは、風間が初めてだった。
呪われた生を享け、穢れた生を歩み、人並みの幸せなど望むべくもないと、信じて疑わずに生きてきた。
けれど、いいのだろうか。人並みの幸せを望んでも。許されるだろうか。輝ける理想を抱き、希望を追い求めて、素晴らしい明日を夢見てしまっても。呪われ穢れたこの身に、その資格があるだろうか。
本当は、ずっと前から分かっていた。人並みに扱われたい。人並みの幸福も、尊厳も、愛情も、全部手に入れたい。誰かに愛されたい。誰かを愛したい。そういった欲望を抱くこと自体は、誰にも止めることはできない。
「オレも、相当罪を重ねてきてるが」
風間がたっぷりとした声で言った。
「正直、相当数の屍の上にオレの人生は成り立っていると思うし、そいつらに悪いと思わないわけでもないが、オレの幸福はオレだけのものだからな。誰にも邪魔はさせねぇよ」
「……」
「だから、オレ達はどこまでもおんなじなんだ」
行きつく先はどうせ地獄だ。それは風間も鶫も同じことだろう。だったら、一時の幸福を目一杯堪能しなければもったいない。しかし、死後も風間と運命を共にするなんて、それはそれで悪くないかもしれない、なんて馬鹿げたことを鶫は考えた。
実に馬鹿らしい。呪い、呪われ、この身に穢れを燻ぶらせ、数多の命を刈り取って、そこまでしてようやく生き永らえた、この行く当てのない罪深い魂が、それでもまだ幸福でありたいと叫んでいる。
たとえ、無数の屍の上に成り立つ幸福であっても、この男と共にありさえすれば価値がある。
「……しょうがねぇから、最期まで付き合ってやるよ」
鶫は踵で風間の尻を蹴った。
「痛ぇわ」
「あんたがぼさっとしてっからだろ」
「お前が先に話し始めたんだろうが」
「休憩は終わりっつーことだよ」
肌を重ね、心を重ねて、手足を蔓のように絡め合って、鶫はひと時の幸福に酔いしれる。刹那と分かっているからこそ、一瞬一瞬が尊く煌めくのだ。
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