第一章 プロローグ

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 鶫の体は風間の想像以上だった。男も女も然程変わらないらしい。  男を手玉に取る小悪魔のような側面と、穢れを知らない乙女のような側面を併せ持つ鶫だが、体の具合から察するに男を知っているのは明白だった。しかも一人や二人ではない。何年もかけて何人をも相手にしている。この歳で、一体どこで仕込まれたのだろう。  鶫の泣き腫らした寝顔を見ながら、風間は詮ないことを考えた。過去の詮索を始めたら、鶫はこの家を出ていくだろう。風間は直感的に分かっていた。   「……煙い」    目を覚まして開口一番に、鶫は文句を垂れた。   「よう寝坊助」 「もう朝?」 「昼近いぞ」 「おっさん、どこで寝たんだ?」 「ソファ。おかげで早く起きちまった」 「ふは、おっさんは早起きだ」 「るせぇ。飯にするか?」 「ピザ」 「ピザは昨日食ったろ。ピザトーストにするか」 「えー……そんならサンドイッチがいい」 「へいへい。注文の多いガキだな」 「たまご多めにして」 「分かったから、さっさと顔洗えよ」    二人の物語はまだ始まったばかりだが、これ以上深い仲になることはないだろう。何しろ、風間は鶫のことを何一つ知らない。鶫もまた、風間のことを何一つ知らない。そして、お互いに知らないままでいいと思っている。   「おっさーん、このタオルそろそろ臭いぜ」 「適当に替えといてくれ」 「この青いのでいいの?」 「何でもいいよ」    知らなくていいことを知る必要はない。風間はそう思っている。少なくとも、今の時点では。
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