健太と萌夫

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健太と萌夫

 今日もあんまり楽しくないな。  健太は教室の窓から校庭を眺めた。体育の授業をやっているクラスが、マラソン練習なのだろうか、くるくると走りまわっている。  家に帰ってもおばさんがいるだけだしな。健太は大きくため息をついた。お父さんとお母さんは、肝臓の病気の康太のためにアメリカに移っている。健太はおばさんの家に一時厄介になることになった。  放課後友達に誘われないかな。と思うが、小学3年でクラス替えがあり、今までの友達とは離れ離れになってしまった。新しい友達は中々できない。  モフは一年前、どこかに行ってしまった。  お父さん、お母さんは「猫はひっそりと死ぬものだから」と言ってなぐさめてくれたけど、全然なぐさめになっていなかった。モフとは最期まで一緒にいたかった。  代わりの猫を飼うのもダメだと言われた。  健太は自分は家でも学校でも独りぼっちだと思った。とっても悲しくて、辛くて、おもちゃを殴ったりしてしまうことがある。 「今日はみなさんと一緒に勉強する転校生が来ました」  小林先生がみんなの意識を黒板に集中させる。 「男の子かな、女の子かな」  健太のまわりでヒソヒソ声がする。 「遠藤萌夫(えんどうもふ)くんです。みんな仲良くしてあげてね」  先生に案内されて、萌夫くんが恥ずかしそうにドアから入ってきた。 「おおっ」  と教室から声があがる。  まず目をひいたのは髪の毛の色だ。黒髪に、白い髪がところどころ混ざっている。でも老人という感じはしない。つやつやに光っている。  健太はまるで、若いころのモフみたいだなと思った。  モフくんはペコリとお辞儀をして、 「今までアメリカの小学校にいました。日本は久しぶりです。よろしくお願いします」  と挨拶する。  すらりとした体形で、元気そうな顔だ。背の高さは健太と同じくらいだろうか。ジーンズがよく似合う。 「その髪の色、染めてるの?」  早速教室で元気なグループを作っている子から質問が飛んだ。 「いや、それは」  萌夫くんが赤くなる。 「遺伝、その、病気で、一部の色素が抜けているんです」  健太は『いでん』という言葉は知らなかったが、ともかく病気なんだなと理解した。
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