健太と萌夫

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 萌夫くんは健太の隣の席に座った。 「よろしく」  と笑顔であいさつする。とろけるような声だった。 「ぼく健太。何か分からないことがあったら聞いてね」  健太もあいさつを返した。すごく感じが良さそうな子だ。友達になれたら嬉しいな、と思った。  教室のチャイムが鳴る。  休み時間になると、早速萌夫くんのまわりはクラスメイトに囲まれた。 「英語ペラペラなんでしょ。いいなあ」  成績上位の女子がうらやましそうにたずねる。 「そんな。日常会話くらいだよ」  萌夫くんが苦笑した。 「男子なのに、萌えるって名前、女子みたいだな」  かなりきわどい質問も飛ぶ。 「いいじゃん。呂布みたいでかっこいいよ」  三国志好きの男子がフォローした。健太は三国志なんか赤壁の戦いくらいしか分からないが、このオタク男子は、ほおっておくといつまでも古代中国の話をするのだ。  五時間目は体育だった。  健太は運動が苦手なので、いつも「二組を作ってください」という言葉が嫌いだった。今日も嫌な班分けだ。  ブルーな気分でいると、右わきから手が伸ばされた。萌夫くんの手だ。 「ぼく、日本の学校ってよく分からないから、一緒の班になってくれないかな」 「ぼくなんかでいいの?」 「分からないことがあったら聞いてって、親切に言ってくれたじゃないか」 「うん、分かった。こっちこそお願い」  萌夫くんの手は、すべすべしていて暖かかった。  萌夫くんは走ることは得意で、球技は苦手だった。ちょうど健太と正反対で、体育ではお互いをかばい合ってがんばった。  萌夫くんは算数が得意で、国語が苦手だった。アメリカにいたから仕方がないかなと健太は思った。助け合いが生まれて、健太の気分はとてもよくなった。 「ぼくたち、親友だよね」  転校してきてから3か月後、萌夫くんは満面の笑顔で健太に言った。 「うん。親友」  健太もうなずき返す。  生まれて初めて親友ができた。  健太は思わず踊りたくなるように心が弾んだ。
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