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夜、健太と萌夫は望遠鏡を担いで近くの裏山を登った。健太は両親と康介が寝静まったのを見計らって、こっそり家を出た。空には満天の星。萌夫君に言わせれば、田舎だからこそ見える空らしい。都会は空気が汚いとも言っていた。
未成年が夜中に出歩けば警察の補導の対象になるが、そこは田舎。わざわざ山までパトロールしに来る警官はいない。それに健太は、見咎められても構わないと思っていた。親友の頼みは補導よりも重い。
セミの鳴き声に混ざって、どこからか猫の鳴き声がする。昔、母に「裏山には化け猫が出る」と脅されたことがあった。子供が勝手に山道に入らないように注意したんだなと思っていた。まさか本当に猫がいるとは、とびっくりした。
登山道を踏みしめる。少し汗ばんできたが、心地よい夏の風が吹き飛ばしてくれる。そういえばモフは出て行ったんだっけ、と昔の思い出がよみがえった。ひょっとしたらこの山は猫の死に場所なのかもしれない。
頂上付近の小さな広場で、健太と萌夫は望遠鏡を組み立てた。
「夏の大三角に合わせたよ。見てみなよ」
萌夫が少し興奮気味に話した。
「どれどれ」
健太はスコープをのぞく。
こと座のベガ、わし座のアルタイル、はくちょう座のデネブが輝いている。
「やっぱ綺麗だよな」
健太は感動を胸に、レンズを動かして土星の輪が映るようにした。
「土星に合わせた。見てみなよ」
「ありがとう」
萌夫は身を乗り出して、スコープをのぞく。
「こうやって星を見ると、俺達って小さいよなって思うよな」
「そうだね。下らないことに一々悩んでるなって、自分が卑小な存在に感じる。大自然って、いいね」
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