日清戦争~近代日本最初の対外戦争下で、近代国家黎明期の庶民がどのように生きていたかということを描いていきます。

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「分かったわ。私が何とかしましょう」 ヒロ子がいうと、 「私も兄が海軍ですから力になれるかも」 と同級の雪子が加勢を申し出た。 「私も商人の娘でございますが、何かできるかも」 麻里子という同級生もくわわってきた。 四人で、まず児玉に会うことにした。 陸軍省へ乗り込んできた四人に児玉は驚いたが話を聞くと、 「そりゃあ、いかん」 と腰をあげた。 児玉は芳川顯正司法相、井上馨内相に話をつけ、警察署へ向かった。 途中、山本権兵衛の車と出会った。 「児玉さん、どこへ行きもんそ?」 児玉は事情を説明した。 「そりゃあいけもはん」 山本も同行することにした。 次官級が二人も現れて、警察署は動揺した。 「こういうことをされては、世間はすわ開戦かと勘違いする。井上内相も噂が先行して株が暴落したら困るといっておられる」 児玉が力説すると、警察は里子の釈放を認めた。 「先生」 結衣が駆け寄ると、 「すぐ戻れたでしょう」 と里子は笑った。 児玉が忠告した。 「暫くの間、新聞へ寄稿しないほうがいいな」 「やはり戦争がはじまるのですか」 児玉は口をつぐんだが、山本は、 「戦争は起きん。少なくとも、おいはやる気がない」 といった。 「山本さま。本当でしょうか?私の兄が海軍ですので気になって」 「おはん、名は?」 「神田雪子」 「神田大尉の妹ごか」 神田大尉は、北京の公使館で駐在武官をしている。
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