繋ぎ留める

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繋ぎ留める

 法眼と四方山話をしてすごし、陽が低くなってきた頃に別れを告げた。  道を繋ぐ先を住処ではなく『梅路のところ』にする。  抜け出た先は裏山の展望台だった。 「ここにいたのか」 「暁……思ったより早かったな。まだ、飯はできてないぞ」  大家と話していた時の愛想の良さをどこに置き忘れてきた、という風情で梅路は話す。  ああ、法眼、知っているさ。  こいつがこれだけ仏頂面をさらすのは、アンタと俺の前くらいだ。 「かまわん」  展望台の屋根の上に、並び立つ。  裏山のねぐらに向かう鴉が、梅路に挨拶をして去っていく。 「おう」 「なんだ」 「預かったぞ」    目の前にひょうたんを下げて見せると、ほんの少しだけ梅路の眉がさがった。 「お元気だったか」 「案じておった」 「そうか……」  西の空が銅色になり、東の空は鉄紺色に染まる。 「すまん」  ぽつりと梅路がつぶやいた。  幾度も繰り返された、梅路の繰り言。 「うん?」 「心配をおかけしているのだろうな……」 「今更だろう」 「お前のことも縛ってしまった」  何度も繰り返された言葉と自嘲するような表情に、腹の底が熱くなった。  こういう時は腕が3本あってよかったと、本気で思う。  ひょうたんを梅路に押し付けながら、梅路の後ろ髪を捕まえて固定しその唇を奪う。 「あ…かつ、き」 「黙れ……。開」  身を捩って逃げようとするのを抑え込みながら口腔に舌を差し込んで、3本目の手で道を繋ぐ。  もみ合いながら落ちたのは、住処に置かれた寝台の上。 「暁」 「なにが不安だ」 「……見つからない」 「ならば探せばいい。つきあってやる」 「いつまで?」 「いつまででも。どこまででもよ。お前、それを望んでいるのだろう?」  かつて、梅路は牛王神符の起請文に『探し出して今度こそ最後まで見届ける』と誓った。  誓いは破れない。  見届けるといったところで、相手のあることだ、何がどう転ぶか先のことはわからない。  梅路を見知っていたがために、中身を知らずに起請文の見届けの鴉に立ってしまった。  知っていれば立たなかったものを、近づきたかったために引き受けてしまった。  俺は梅路に惚れていたのだ。 「……暁……っ」 「案ずるな…俺は好きでお前に縛られている」 「ふ…ぅ……ん……ん……」  口を吸い、唾液を交わし、耳を食む。  ひょうたんを握ったままの梅路の手を頭上に留め、仕事のために人の真似をして着込んでいるスーツをはぎ取る。  顎の線を舌でなぞれば、声を上げぬようにと梅路の体に力が入った。 「流されろ…夜は長いぞ」 「…ぅ……ぁ……ん、暁……」  臍の方から喉に向かい身体の中心を舐めあがる。  幾度か繰り返し梅路が身体を捩ったのを利用して、俺の方へ向けられた胸の飾りにかじりつく。 「ぁっ……」 「凝っている」 「い、うな……んぁ……っ」  探しているのは遮那と呼ばれたあの小童。  梅路とどのような関係にあったのかは知らぬ。  だが、奴が選んで進んだ道を、梅路が悔やんでいる。  探し出して見守ると、法眼の反対を押しのけて群れを抜け起請文まで書いたものを、今ではこうして俺と体を重ねるようになった。  俺はそれで構わぬと何度も繰り返すのに、梅路はそれをも悔やむ。  そして、失せものを探すことも俺を手放すこともできぬと、揺れる。  誓いは破れない。  けれど、誓いが継続するならずっとお前といることができる。  ならば。  叶わなくてもいい。  このままでいい。  でも、寂しい。  そうして心を痛めるたびに、俺は体で梅路をつなぎとめる。 「暁……ああ…あっ……そ、こ……ああ…」 「流されろと言ったが、焦ることはない。言ったろう、夜は長い」 「うあ……ん……こ、れは…?」 「お前の好物なのだろう? 楽しめばよい」  ひょうたんの中身を口移しすれば、素直に飲み込んで頬を緩めた。 「あれもこれもと忙しない」 「では、あと一口呑んだら、俺を楽しむがいい」 「楽しませてくれるのか?」 「ずっとそう言っている」 「ずっとか」 「ずっとだ」  群れからはぐれた鴉は、俺の言葉でホッとしたように力を抜く。 「では、楽しませてもらおうか」 「望むところよ」  いつもの調子で微笑む梅路を、俺は全ての腕て抱きしめた。  夜は長い。  鴉は楽しむことに決めたのだから、ゆるりと朝寝と決め込むがいい。
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