2人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
「マリアと申します。こちらへ座って下さい」
私は、部屋に入ってきた佐伯くんにそう言った。
彼はおどおどしながらテーブル向かいの席に座る。
「名前を聞いてもよろしいですか」
「佐伯慎也です」
「何を占いたいですか」
「今、好きな人がいます。5つ上の先輩で冴子さんと言います。その人と結ばれたいです」
『えっ、私のこと。佐伯くんそうなんだ』
突然のカミングアウトに、私の心はイルミネーションのようにキラキラと輝く。
『私もよ、佐伯くん』と言いたいところだが、今は占い師マリアであることを自覚して、冷静な対応をとる。
私はカードを切って、彼の目の前に数枚のカードを並べる。
そして、一枚のカードをめくった。
「残念ながら、好きな人との縁はなさそうですね」
ちょっと意地悪をしてしまった。
めくったカードには、月が描かれていた。
だけど彼から見て、向きは逆さまだった。
『最高の運勢』
本来なら、そう言わなければならなかった。
私は占い師として、淡々と説明を続ける。
「このカードには『不安、憂鬱、迷い、現実逃避、将来が見通せない』と言う意味が込められています。残念ながら、諦めた方が良いと思います」
それは嘘の説明であるが、もし本当のことを言ってしまったら、彼は会社で私のことをじっと見て、しつこく話しかけるかもしれない。
嬉しいけど、一緒に仕事をする上で、それは困ると感じてしまった。
私の説明に、彼は落胆している。
『違うのよ、佐伯くん』
私の想いも虚しく、佐伯くんは肩を落としながら店を出ていった。
彼の背中が寂しく見えて、私の心は痛かった。
最初のコメントを投稿しよう!