占いの館にて

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「マリアと申します。こちらへ座って下さい」 私は、部屋に入ってきた佐伯くんにそう言った。 彼はおどおどしながらテーブル向かいの席に座る。 「名前を聞いてもよろしいですか」 「佐伯慎也です」 「何を占いたいですか」 「今、好きな人がいます。5つ上の先輩で冴子さんと言います。その人と結ばれたいです」 『えっ、私のこと。佐伯くんそうなんだ』 突然のカミングアウトに、私の心はイルミネーションのようにキラキラと輝く。 『私もよ、佐伯くん』と言いたいところだが、今は占い師マリアであることを自覚して、冷静な対応をとる。 私はカードを切って、彼の目の前に数枚のカードを並べる。 そして、一枚のカードをめくった。 「残念ながら、好きな人との縁はなさそうですね」 ちょっと意地悪をしてしまった。 めくったカードには、月が描かれていた。 だけど彼から見て、向きは逆さまだった。 『最高の運勢』 本来なら、そう言わなければならなかった。 私は占い師として、淡々と説明を続ける。 「このカードには『不安、憂鬱、迷い、現実逃避、将来が見通せない』と言う意味が込められています。残念ながら、諦めた方が良いと思います」 それは嘘の説明であるが、もし本当のことを言ってしまったら、彼は会社で私のことをじっと見て、しつこく話しかけるかもしれない。 嬉しいけど、一緒に仕事をする上で、それは困ると感じてしまった。 私の説明に、彼は落胆している。 『違うのよ、佐伯くん』 私の想いも虚しく、佐伯くんは肩を落としながら店を出ていった。 彼の背中が寂しく見えて、私の心は痛かった。
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