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昼休みに入った私は、佐伯くんを見つめていた。
彼は、フロアーから出ていくようだ。
「どこに行くんだろう」
私は、何気に彼の後を追う。
向かった先は、会社近くの公園だった。
私は公園内の木陰から、佐伯くんの様子をそっと伺う。
彼はベンチに座って食事を摂った後、目を閉じて、じっとしている。
昨日の事でショックを受けているのだろうか?
「ちょっと言い過ぎたかな」
本音がポロリと出てしまう。
マリアとして言ったあの結果に、後悔の念が募る。
私は彼に近づき「佐伯くん」と声をかけた。
目を開けて、私を見つめる佐伯くんは可愛かった。
「隣り空いてる」
「はい」
佐伯くんは慌てた様子で、ベンチの端に移動してくれた。
私は彼の隣りに座る。
「何か悩んでない」
「えっ、あ……、はい」
質問する私に対し、彼は動揺しているようだった。
「答えなくてもいいわ、ただ遠くで見てて気になったから」
「えっ」
佐伯くんは目を見開いて、私の顔を見る。
『可愛い、抱きしめたい』
そう思ったが、私は理性を持って、彼に接する。
「勘違いしないで、これでも貴方の上司だから、部下に気を使うのは当然でしょう。佐伯くんを指導している先輩社員から報告は受けてるしね」
「どんな報告ですか?」
「いろいろよ、よくやってくれてるって褒めてたわ」
「俺、何も出来てないですけど」
「新入社員だから、出来ないところがあるのは当然よ。そこを出来るように伸ばしていくのが先輩社員の役目でもあるからね。お願いしている資料は完璧で助かってると言ってたわ」
「そうなんですか、怒られてばかりですけど」
「怒られてるうちは大丈夫よ。みんなに期待されているから怒られるの、だから頑張って」
「ありがとうございます」
佐伯くんは、私に頭を下げてくれた。
『本当に純粋なんだから』
私のドキドキが止まらない。
それでも私は理性を保つ。
「元気が出たようで良かった」
「はい、実を言うと悩みがありまして」
佐伯くんはそう言って、占いの館に行ったことを話してくれた。
「好きな人との相性が悪かったんだ」
「そうなんです。あっ、これ誰にも言わないで下さい。みんなの知らない人ですから」
「分かったわ」
私はそう言って、彼の顔を見つめる。
『言うわけないじゃない、私に告白しているなんて』と思いながら話しを続ける。
「そのカードってどんな模様だった?」
「月が描かれてました」
「どっちに向いてた?」
「僕から見て、逆さまでしたね」
「それって大丈夫ってことじゃない」
「えっ、どういうことですか?」
そう言いながら、佐伯くんは首を傾げた。
「月のカードには悪い意味が込められている。それは事実だけど、逆さまだったら、反対の意味があるの」
「えっ、そうなんですか。それじゃ占いの結果は」
「不安や誤解からの解消、過去からの脱却、好転し始める、問題に光が差す、未来への希望、と言ったところかな。最高の結果だと思うよ」
私はサラッと答える。
『だってこれも本職なんだから』
言いたいけど、言えない自分がもどかしい。
「本当なんですか、やった」
「だから頑張って、期待しているから」
「ありがとうございます」
佐伯くんの表情が晴れ晴れとしていた。
良かったと思えた瞬間でもある。
「さぁ仕事よ、行きましょう」
「はい」
私は会社へと戻る。
佐伯くんと肩を並べて一緒に歩ける喜びまでついてきた。
『彼は私にどう接してくれるかな』
そんなウキウキした気分が止まらなかった。
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