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専属契約 1
荷物がなくなり身軽になった馬が軽快な足音を鳴らす帰路、対照的にサニの心情は重く複雑だった。
「あの村の方々は……セディシア帝国民ですよね」
「ああ、彼らは亡命者たちだ。文化のギャップがある故、他の村に入っても孤立して馴染めないことが多い。それでセディシア民だけが住まう村を一つ作って、流れ着いた人々を受け入れているんだ。どういう経緯があっても、この地に根を張り直したのならばオーフェルエイデの民として、生活できるまで力になってやりたいからな」
当然、国から逃亡した者を受け入れたからといって、敵国に感謝されるわけはない。
むしろリスクの方が大きいだろう。それをわかりながら、リエイムは無償で支援をしているのだ。
何度もしきりに頭を下げていた村人たちの顔が浮かぶ。
「祝福を望んだ方々は……自教の信仰を捨ててしまったのでしょうか」
「彼らの心情は俺ではわかり得ぬ。しかし谷でも言ったが、セディシアでは軍事力に膨大な国費を費やすかわりに市民の命が食い物にされているのは事実だ。生活を制限されながら戦や飢餓や病気で家族はどんどん無残に亡くなっていった末、身も心もボロボロになって命からがら逃げてくる。信じていた神を疑いたくもなるのも、なんらおかしいことではない」
昨日死者たちに向ける眼差しの奥に苦しみがちらついていたのは、亡命してきた民たちを見てきたからだったのだとようやく気づく。
しかし今リエイムの声は、史実を伝えるかのような冷静さに纏われ、否定も肯定も含まれていない。
どう受け止めるかは、サニ自身の気持ちに委ねているようだった。
そして自分の考えを決してこちらに押しつけることはしない。
なぜリエイムは、こんなにも人々に対して公平な目を向け、手を差し伸べられるのだろう。
自分より年下なのに、遙かに多くのことを見聞きし考えている。
それは知識や教養の量ではなく、リエイム自身の持つ器量の深さであるに違いなかった。
急に自分の存在が小さく思えた。
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