出会い・宿屋にて2

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出会い・宿屋にて2

 スーラから舞術を操る聖舞師をクレメント国に派遣し、軍に一人配属させる。  聖舞師の『加護』によって軍の武力を増殖させながらセディシア帝国と戦うという戦法を二国は編み出した。  両国が力を合わせたことでセディシア帝国との武力は五分五分、なんとか抑制することが可能になり、侵略を阻止しているというのが現状だ。  そしてサニもクレメント国に派遣された聖舞師の一人だった。  銀貨を丁寧に受け取りポケットに入れると、奥のホールをチラリと覗く。  テーブル席にバーカウンターもあって、広々とした空間には客がそこそこ座っていた。 「あちらは、ダイニングですか?」 「ええ、レストランバーを併設してるんですよ。長旅でお疲れのことでしょう、よろしければお使いくださいな」  朝食を食べたっきり、一日移動に費やしたので空腹だった。明日も早くから行動しなければならないし、部屋に入る前に夕食を済ませてしまおうと、カウンターの隅に腰掛けた。  注文した料理が来るまでの間、地図で明日の集合場所を確認する。  戦場となる谷まではこの宿から歩いて一時間程度。  今回初めてサニが加護に入る軍はクレメント国の西部に位置するオーフェルエイデ領の、オーフェルエイデ公第二子息が率いる軍だと聞いている。  二日前までいたグーロン第三軍の軍将によると、第二子息は成人の儀式後、軍を率いるようになってわずか二年と少し。  にも関わらず、クレメントの他軍から頭角を表し、セディシア帝国軍に勝利し続けているらしい。  クレメントに忠誠を誓う軍の数は大小合わせると三百にも及ぶ。  対して派遣される聖舞師は百人前後と少なく、全ての軍に一人つくことは不可能だ。  戦経験に長けた軍将の率いる鍛錬された軍隊から優先的に聖舞師を付けることができるが、実際サニも派遣される場所で旗を振る軍将は今まで少なくとも十年は軍将経験のある人物ばかりだった。  そのため、三年目を迎えたばかりの軍将と組むことはかなり珍しいと言えた。  しかも年齢は自分よりも一つ年下。  オーフェルエイデ領はクレメント国を形成する同盟七州のうち首都があるカダーラントの次に裕福で領土も広いとされる名家だ。  きっと幼少期から熱心に戦術を教育されたに違いない。与えられた少ない情報だけでも、次の軍将が相当やり手なのだろうということは十分に想像できた。  しかし名軍将が必ずしも良い人物とは限らない。  この四年間を思い返せば、むしろ逆のケースが多い気がする。  トラブルを避け、なるべく目立たないように心がけよう、と考えながらサニはコップから水を飲んだ。
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