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最後の村 2
「平和を望みながら戦争をするなんて、矛盾してますね」
「本当にな。龍なんているわけないのに、そんな伝説を信じて戦争するなんて、ばかばかしすぎる」
リエイムは戦場で見せた苦い表情を一瞬映してはすぐに消した。
「さ、最後の村に着いたぞ」
最後に立ち寄った村は、どうとは明確に言えないが、他の村とは少し雰囲気が違っていた。
点在する家々の造りは今までと一緒なのだが、村の空気がどことなく沈んでいるように感じられた。
リエイムが一件の戸を叩くと、出てきた人物の格好ではっとなる。
セディシア軍が来ていた平服にそっくりだったからだ。
他の村では立ち話で終わっていたけれど、リエイムは初めて家の中に入った。
小さな食卓の椅子に座ると、サニもお茶を勧められる。
リエイムが自分を紹介してくれる間にも、粛々と音を立てず村人たちが集まってくる。
すぐに狭い家の中は村人で埋め尽くされた。その静粛な様子も、今までの村とはまるで違った。
「村長、みなの調子はどう?」
村長と呼ばれた男は白髪で、痩せ型だった。後ろで話を聞いていた村人たちも、老若男女関係なく大体は痩せこけている。
「はい、変わりなく。この前セディシアから村に新しく来た二家族たちも、畑仕事にようやく慣れてきたところですよ」
村長の聞き慣れないアクセントを耳にしてやっぱり、と思う。部屋の中にいる人々はみな、セディシアの民たちだ。
「他の村で取れた作物だ。みんなで分けてくれ」
リエイムはそれまで民たちからもらっていた荷物をひとまとめにして全て渡した。この村だけ、他の村と違って畑は小さく、実りも少なかった。
最初からこのつもりで他の村を先に回り、作物を集めていたのかと納得する。
「いつも、本当にありがとうございます」
村長は壁で立つ村人たちと一緒にリエイムに向かって何度も手を合わせた。
「困ったことがあったらなんでも、遠慮せず教えてほしい。あなた方はもう、オーフェルエイデの民なのだから」
残っていたお茶を飲み干し立ち上がったところで、遠慮がちに村長がサニを呼び止めた。
「あの……聖舞師様」
「はい」
「ご迷惑でなければ、私たちにご祝福をいただけませんか」
村長の申し出にサニは軽い衝撃を受けた。
王教一致国家のセディシア帝国はハルバラ教を国教として強制している。ハルバラ教は一神教の、特に厳格な宗派で他宗教を絶対に許さないはずだった。
「私の祝福はシジャ神によるものですが……よろしいのですか?」
「はい、ぜひお願い致します」
ちらと横に立つ男の顔色を伺うが、リエイムもやってやってくれという意味でひとつ頷いた。
スーラ以外の人に祝福を与えるのは初めてのことだったが、サニの前に出て列をなす人々の額に手を当て、祈りを口にした。
祝福とは、実質的に力を強化する軍の加護とは違い、未来の幸せを願う、効力を伴わない祈りだ。
効果といえば、ほんの少し体温が上昇するくらい。
それでも、祈りを施された人々は涙を静かに流して喜んだ。
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