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専属契約 3
領主であることをおくびにも出さず村人一人一人と対等に接するリエイムを同行しながらずっと見ていた。
そしてセディシア亡命者たちに向けた慈愛の表情。
十三歳から聖道に入り訓練を重ね、神についてたくさん学んだ自分よりも、遙かにその器は大きい。
リエイムの持つ豊かで寛容な心と、その中心に一本太く貫かれた信念に、今日一日何度も胸を打たれた。
自分が聖舞師であることには誇りを感じている。
しかし軍につき加護を与える仕事に対しては、どこか他人事なところがあり、個人的感情は今まで少しも湧かなかった。
クレメント国に協力するのは自国の平和に繋がることであり、神が望むことだから。
スーラに戻ったとき、教鞭をとるために戦の経験が必要だから。
そう理解しながら、次から次へとやって来る指令を黙々とこなした四年間だった。
だからこそ、どの軍につこうと関係ないし、内情に踏み込みもしない。
自分の役目をしっかり全うするのみだと考えていた。しかし今は、リエイムの期待に応えたいという気持ちを強く抱いている。
同時に朝食の間、短い時間を共にしただけなのに、オーフェルエイデ家の人々をなぜだかとても身近に感じてもいた。例えて言うなら、まるで第二の家族のような。
聖舞院の先生たちにすらそんな感情一度も感じたことはないのに。
オーフェルエイデ領に、仕えたい。リエイムの率いる軍を支えたい。
聖舞師としてクレメントに派遣されてから、初めて抱く自主的な願望だった。
「……お引き受けいたします」
「それは誠か?」
「はい。私も、今日民たちの安寧を支援するリエイムに感銘を受けました。オーフェルエイデ領にお仕えしたいと考えます」
リエイムはほっとしたように大きく息を吐き、それから子どものように無邪気に両手を挙げ喜んだ。
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