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雨の中の野営 1
秋の始まりの戦場では、珍しくなかなか決着が付かなかった。
夕方ごろ、雲の動きを読んだリエイムは一旦引き、サニに大雨を降らせるよう頼んだ。
あえて戦いを長期戦に持ち込むつもりらしい。
壺をひっくり返したようなどしゃぶりの雨は夜になると収まりつつあったが、小雨は続いていてしばらくやむ気配はない。火を焚くことができないので、両軍は穀物を生のまま食べる選択肢しか残されていない。
リエイムはオリザに水を加えて練り、柔らかくして食べるよう兵たちに指示していたところだった。
「サニ、ちょっといいか」
近頃、夜は大分肌寒くなってきた。羽織っている外套の前をたぐり寄せ、「はい」と返す。
「これから兵はここで一夜を過ごすが、サニは一足先に城に帰って良いぞ」
「私だけ? なぜですか?」
「こんな雨の中、聖舞師どのに野営させるのは一晩でも忍びない。ひもじいし寒いし、疲れるだろう」
「でも、朝方には再度出陣なさるのでしょう?」
「セディシア軍の主食は米。生米は消化に悪く、そのまま食べると腹を壊す。疲労に加え、食べ物のせいで朝までには体調不良を起こした兵が向こうで続出するだろう。サニが舞わずとも、おそらくすぐに決着がつく」
なるほどと思いながらも、サニは頑なに首を横に振った。
「私もみなさんと共に野営します。リエイムの作戦を信じていますが、万が一何が起こるかわかりません。それに、私もオーフェルエイデ軍の一員です。不要だとしても、戦いが終わるまではいさせてください」
リエイムははっとなった後、花が咲くようににっこりと笑った。
「ありがとう。サニが聖舞師になってくれて本当によかったとしみじみ思うよ」
そのあけすけな笑顔に、なんだかいたたまれなくなってしまう。そんなに喜んでくれるなんて、思っていなかったから。
「べ、別に……仕事ですし」
「わかっているよ。では最後まで頼んだ。こんなものしかなくてすまないな」
生のオリザを渡され、一口食べてみる。ほんのり甘く、焼く前のクッキー生地のような食感で、まずくない。咀嚼しているとけっこうくせになる味だ。
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