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雨の中の野営 5
「あの時は深く考えなかったですが、大人になっても寂しいと思わないのは、小さい頃から寂しくならないことを教えられたからだったのかなと、今振り返ると思うんです。無意識下で子どもながらに空虚には感じていて、でもそういうわがままが言える環境じゃなかった。だから寂しいという気持ちを自分の中で押し殺していたのかもしれません。そのことに、最近オーフェルエイデのみなさんと接していて立ち返ったんです」
「俺たちと?」
リエイムは片眉を上げる。
「はい。城に帰ってお父上と植物園の野菜たちに水をやる朝や、ティモシーベロニカとままごとをして遊ぶ昼、そしてヘンリ夫妻に混じってトランプに興じる夜が、本当に楽しいんです。私もオーフェルエイデ家の一員になれたような気がして。満たされなかった子ども時代を、やり直しているんだなあと感じました」
「当たり前だ。サニはもう俺たち家族のひとりだよ」
「でもその豊かな日常の全てを与えてくれたのは、他でもないリエイムなんです。あなたがいなければ私はここにいることもなかった。軍でもそうです。ずっと孤独だった私を温かく迎え入れ、人々との繋ぎ役になってくれている。だから、リエイムのその誰とでも仲良くなれる気質に、とても感謝しています」
家出も学校に通って得た経験も、今のリエイムをかたどる大切な一ページだ。
それを、自分はとても感謝しているということが言いたかったのだが、うまく伝えられたかはわからなかった。
でも、リエイムは目尻を赤くして少し照れたように笑った。
「ありがとう」
いつの間にか雨は上がっていて、半月が夜空に浮かんでいる。
黒い髪は月明かりに照らされていて、透けると赤色に反射する。
「リエイムは、不思議な黒髪をお持ちですね。光を集めると、炎のように見えます」
「ああ、よく気づいたな。小さい時からこうなんだ」
思わぬ近さで、気づくと見つめ合っていた。お互いそのことにはっと気づき、同じタイミングで目を反らす。
「出陣の前には声を掛けるから。このまま少し仮眠するといい」
「……はい」
静かに頷いたが、早撃ちを続ける心臓の音は、なかなか鳴りやまなかった。
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