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「別になんでもいいよそんなの。私食堂に行かなきゃだから後でね」
視線も合わせず不機嫌さもあえて隠さずに言ってやった。
立ち去ろうとした私の背中にエリカが。
「サヤは今の自分に満足してるってことだね。羨ましいな」
つい足を止めてしまった。
「どういう意味?」
「そのまんまだよ。誰かになりたいっていう願望もないなんてよほど恵まれた人生なんだろうね。心底羨ましいよ」
エリカの歪んだ笑顔は馬鹿にするというより哀れんでいるようにみえた。
その表情にも苛立った。
ゆっくりと席に戻る。
エリカを睨みつけて。
「もしかして喧嘩売ってるの?」
「まさか。不快にさせたのなら謝るよ。ごめんね。でも、羨ましいと思ったのは本当なんだよ。ね、よかったらこれ食べる?」
エリカはスクールバッグからぱんぱんに膨らんだコンビニ袋を取り出した。
中には大量の菓子パン。
その中の一つを私に差し出した。
「いらないよ」
「心配しなくてもお金はとらないよ。怒らせちゃったお詫び」
「別に怒ってないし」
お金の心配なんかするわけもないし。
「じゃあもらってよ。いっぱいあるからさ」
お腹も減っていたし、こいつのせいでお昼を食べそこねるのはしゃくだったのでパンを受け取ることにした。
エリカは満足そうに笑った。
「好きなだけ食べてよ」
机の上にドサドサと菓子パンの山が作られた。
軽く周りの視線が集まっていたけどエリカは気にもしていない。
むしろさっきより上機嫌に見える。
なんだかこの状況に戸惑っているのを悟られたら負けのような気がしてきて、私も何も気にしていないように無言でパンにかじりついた。
ふたりともしばらく無言で黙々とパンを頬張っていた。
なんでこいつと一緒にお昼を食べてるの私。
「食べざかりだし一つじゃお腹膨れないよね。こんなに食べきれないからどんどん食べてよ。どれでも好きなだけ。遠慮はいらないよ」
じゃあどうしてこんなにたくさん買ったのか。
思ったけど口にしたらまた嫌味な答えが返ってきそうだったので無言で一番高そうなサンドイッチを手に取った。卵のやつ。
誰が遠慮なんてするもんか。
なんで私がこいつに気を使わなきゃいけないの。
まだまだお腹は空いている。
なんならあと3つは食べてやろう。
「で、さっきの話なんだけど」
一つ目のパンを食べ終えたエリカはもう食べるのを終えたというように机の上に肘をついて手を組んだ。
「さっきの話って?」
「誰かに変身できるならって話だよ」
「ああ。まだ続いてたんだその話」
「変身できるのは一回だけ。戻ることもできない。変身できるのは外見だけで中身はそのまま。そんな力があったらサヤだったらどうする?」
エリカのゆるい笑顔からは表情からは冗談なのか本気なのかも読み取れなかった。
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