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そう思ったら、水無の悪戯心に火がついた。
にやりと笑うと、えいやっ、と再び彼女が靴を蹴り上げる。
彼女が靴を蹴り上げる度、雨水が桐谷に襲いかかった。
これには桐谷も慌てる。
「マジでやめろよ、水無。替えのジャージねーの、これだけなの」
そこに真剣な響きを感じ取って、さすがの水無も動きをとめた。
ジャージはまだら模様を通り越して、濃い黒の色になっている。
瞬間、ちょっぴりの罪悪感に苛まれる。が、ふとそれに思い至って目を瞬いた。
「いや、ジャージ買えよ」
思わず桐谷の顔を見上げると。
「まあ、そーなんだけど……」
ばつが悪そうに彼は笑った。
出かけんのめんどうで。と。
「今度買えや」
「そーする」
「てか、学校のジャージでよくね?」
「あれはダサい」
「それな」
それから、二人で笑った。
*
「んで? 水無はなに一人で百面相もどきしてたん」
桐谷の改めての問いに、水無がはっとした。
そうだ、そうだった。
かばと己の手元を見下ろす。
レジ袋に手を突っ込んでカフェラテを掴んで。
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