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急に彼から声をかけれたから、きゅっとどこかが狭まった気がして、彼女は息を詰まらせた。
「――っ! 入んねーしっ!」
反射的に叫ぶ。
「んじゃ、濡れて帰んの?」
「……もともと、そのつもりだったし」
「意地張んなよ」
ほれ、と。
桐谷は促すと同時に、自身がさす傘も傾ける。
ちょうど傘の下に二人が入れる感じに。
水無の目に、桐谷の隣に一人分の空間が見えて。
刹那。せり上がってきた熱が瞬時に頬へ集まり、体に緊張が走って強張る。
「――っ」
弾かれたように、水無はぐるんっと桐谷に背を向けて叫んだ。
「うちも傘買ってくるっ!!」
ばっと飛び込むような勢いは、まるで危機迫っているようで。
コンビニへ駆け込んで行った彼女の背を。
――水無の反応、何か楽しいんだよなあ
桐谷は肩を揺らしてくつくつと喉奥で笑いながら見送った。
「おもしろ」
その後、水無と桐谷はそれぞれ傘をさし、二人並んで歩いた。
互いに傘をさしているため、それ以上は近付くことはないし、近づけない。
その距離感が、水無にはちょうど良かった。
同時に心地も良くて、そして、ちょっぴりそわそわした。
ただ。そのあと彼女は、なぜか桐谷と彼のジャージを買いに行く約束をさせられて。
約束の日が近付くにつれて増す緊張と不安。
そして、ちょっぴりの期待に、落ち着かない日々を過ごすことになる――。
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