19時から9時まで

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それからデレの大セールをしているらしい翔君と戯れながら、宿泊に切り替わり出入りも落ち着いたところで一番上の客室階から片付けていくことにした。  予想外にも休憩で帰ると思っていた客も残ったので、全24部屋中の半分は在室中で、伴って清掃部屋も少ない。 普段は別々に動いて〝はがし〟を済ませた後に清掃するのだが、清掃部屋は多くないのでそのまま作っている事にした。  相手が翔君だからこそ作業は短時間で済むのだ。休憩で帰った客の滞在時間はほぼすべて四時間を超えない。楽勝だ。  ───とか思っていたわけだが。実際のところ部屋はそんな汚くなかったものの、二番目に清掃に入った部屋のベッドに脱ぎ散らかされたコスプレ衣装(制服)が置いてあって、思わず「えー」と声が漏れてしまった。 〝香〟にはコスプレ衣装のレンタルがいくつかある。 「一般的な制服ってコスプレなのかなって思う時ない?漫画やアニメの個性的なものなら分かるけど」 「うん。でもここの部屋の客、若くなかった」 「ああー・・・えぐいな」 「えぐい」  思い出してみると、確かにこの部屋から出てきた人物は若くなかったし、むしろどちらも中年に差し掛かろうとしているように見えた。  レンタルは夕勤だろうから、まあその時どう思ったかは大体想像出来るけど会った時に何も言われなかったし、忘れたんだろうな。新人くん居たし。  ていうかそれを新人くんに持って行かせてたらあいつら鬼畜だと思う。 「とりあえずゴミ回収~」 「風呂行ってくる」 「よろしくー」  風呂掃除用のバケツを持った翔君を見送って、さてどう廃棄しようかと考えながらゴミを集める。  翔君が風呂、俺がルームのゴミ集めや備え付けの食器や灰皿洗い、アメニティ補充、ベッドメイクの準備などが主な役割になっている。  一見して俺のほうが仕事多くない?と思われがちだが、案外そうでもなく、風呂掃除してる間にルームの方が大方終わってしまうのだ。それは翔君と役割を交換しても変わらない。  それに、風呂がびっしゃびしゃだったりクソ汚い時だって結構あるから、ルーム掃除のほうが楽だったりするのだ。  マネージャーいわく、これは俺と翔君のコンビだから効率よく出来ているのだと、周りもそうなればいいのにというニュアンスで言っていた。いやニュアンスというか実際に言ってたわ。  なかなか従業員全員がこういう風にはならない、と疲れたように言っていたマネージャーには、その翌日に大好きらしいハーゲンの限定アイスを買ってあげた。普通に感謝された。  マネージャーの心労具合を思い出しながら掃除を済ませ、ベッドメイクの準備をしているところで翔君が風呂掃除を終わらせてベッドのところにのそのそとやって来た。  その動きもかわいい。癒される。 「床にローションぶちまけやがって」 「え、マジか。ないわー」  無表情と淡々とした声で荒い言葉使いをする翔君が面白い。  だからいつもより遅かったのか、なんて思いながら時計を見たら、清掃に入ってからまだ十分しか経っていなかった。  相変わらずの速さである。感心しつつ、翔君とベッドメイクを進めていく。ベッドに関しては二人でやったほうが断然早い。お互い一人でも十分問題ないが、うろちょろしなきゃいけない。個人的には一人で作るのも好きだし、楽しいんだけどね。  ベッドメイクまでをさくっと終わらせて、剥いだシーツやゴミの袋を持った翔君がそれを片付けている間に、小さいながらも吸引力の強い掃除機で床の細かいゴミや髪の毛を取っていく。  風呂場までかけて最終確認して、玄関でスリッパを整えていると、翔君が戻ってきて風呂掃除のバケツを持って次の部屋に向かう。  各階にあるリネン室には同じ備品があるので、わざわざ荷物を違う階まで持ち歩く面倒がない。  次の部屋はきれいかな、どうかな、なんて話をしながら掃除を済ませていった。
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