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───頭上に置いた携帯の振動音で意識が浮上した。アラーム以外は常にマナーモードなので、まだ起きる時間では無いとぼんやりした頭で考えた。
お互いに寝返りをしたからか腕枕ではなかったが、向かい合わせにはなっていて自然と微笑みが出てくる。
ゆっくりうつ伏せになってベッドヘッドに置いた携帯を取って点灯した液晶の明るさに眉が寄る。通知は夜勤用のトークルームの名前を出していた。
画面上部の時間を確認する。
「・・・16時半」
六時間は寝たか。
眠気はあるが、宮田君からのlineに目を通すと文とおはようのスタンプだった。
それが目覚まし代わりになったらしい。隣で丸くなる翔君の髪を触りながら、返事のおはようスタンプを入れておく。
集合は18時だが、俺も翔君も支度が早いので充分な余裕がある。
場所も職場に向かう途中にあるファミレスに決まっているし、ここから割りと近場にあるので20分前を目安に出ればいい。
もう少し微睡みを味わおうかなと枕に頭を落として向かい合うと、薄目の翔君と目が合った。
「……びっくりした」
「んー…」
もぞもぞと動く翔君の愛らしさにときめいたが、そこから更に俺に抱き着いて来たことで萌えた。
この可愛い過ぎる生き物は何なんだ、と語彙力の失われた何度目かの自問をし、恋人だという自答を済ませてから遠慮なく抱き締め返した。
幸せは歩いて来ないだから歩いて行くんだね、という歌が何故か頭に浮かんで、歩み寄る事の大切さを勝手に実感した。自分でも意味が分からなかったが、寝ぼけているんだろうなと自己解決しておく。
設定していたアラームが鳴ると、ふたりで布団から這い出して顔を洗い軽く歯を磨く。
今日も夜勤は翔君となので、一応動きやすい服に着替えて準備を終わらせた。玄関でドアを開ける前に翔君がキスを仕掛けてきたから驚いたが、然り気無い場面で幸せの種を植え付ける翔君が好きだ。
並木さんと宮田君に会ったら確実に「周りに花が咲いている」とか言われそうだが、この際それでも構わないくらいには満たされている。
「並木さん、家族のご飯は良いのかな」
自転車で目的地まで走っていると、並走した翔君が前を向いたまま言った。
確かに、並木さんはいつも家族で夕食を摂っていると言っていたし、時間的にも気になる所である。
「用意してから来るんじゃない?」
「うん」
道が細くなって後ろへ流れた翔君を横目で見てから、近付いてきたファミレスが視界に入ってきた。
「───翔さん、由貴さん、おはよーございます!」
「おはよーふたりともー」
ファミレスに入ると、近くの四人席には既に宮田君と並木さんがいて、宮田君が手を振っている。夜になる時間だが、職業柄、朝の挨拶を違和感なく交わす。
「おはよう」
「おはよ。並木さん、家のご飯は良いの?」
「大丈夫大丈夫。ありがと。旦那は飲み会で、子供も友達とご飯食べるって言ってたからね」
なるほど、と納得して席に座る。
隣に翔君が座り、店員さんが水とお手拭きを持ってきてくれた。
「宮田君がお腹空いてるみたいだし、先に頼んじゃおう」
並木さんの言葉に頷いてメニューを広げると、翔君が覗き込んでくるので真ん中辺りに置いた。
「そういや、なんで急にご飯?」
どれにしようか選びながら聞くと、宮田君は決まっているのか水を飲んでいて、気まずそうに明後日の方向を見て言った。
「……小山くんの事で」
神妙な声に首をかしげる。
宮田君の夕勤デビューは来週からだし、会ってもすれ違いなだけだと思っていたけど何かあったのだろうか。
注文を済ませて料理が来る間に粗方の話は聞いておきたいと言えば、宮田君は了解してくれた。
「小山くんとなんかあった?」
「あー・・・いや、なんかあったわけじゃないんですけど、言っておきたい事はあります」
並木さんも翔君も黙ってドリンクバーから持ってきた飲み物に口をつけているが、聞く姿勢は取っているのでそのまま促した。
宮田君は「大袈裟な話じゃないんですけど」と前置きをした上で話をはじめる。
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