19時から9時まで

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19時から9時まで

───目が覚めたら17時だった。  10時近くに帰ってきて、風呂に入って仕事中の翔君とのやりとりを思い出しながら寝たような記憶がある。  たまに仕事終わりにそのまま出掛けるとすぐに寝られるけど、大概20時には目が覚めて、怠い体を入浴で何とか回復させて仕事に行く事もあった。  最初にやらかした寝過ごしとか、元々あった寝付きの悪さも最近では落ち着いてきて、完全な夜型人間になった気分だ。とはいえ夜に眠れなかったから始めた仕事だから、昼の仕事は考えられない。  枕元に置いていた携帯の液晶をタップすると何件かLINEの通知が表示される。6割は職場関係だ。みんな暇かよ。  たまに翔君から良く分からない画像が来るけど、毎回じわじわ来る系のシュールなもので、どこで見つけてくるのか分からないが探したやつじゃなくて自分で撮ったやつだから尚更シュールだった。  そんなたまにある画像が添付された個人のトーク画面に、寝起きの頭ながら冴えてくるとじわじわ来た。 「しかもギリ午前中…」  おやすみ、と短文の下にシュールな画像。  寝る前に見てたら思い出し笑いで寝られなかったかもしれない。  おはようシュール画像、と返事をしてから体を伸ばして起き上がる。  いい具合に空腹で、さてなにを食おうかと思案していると、LINEの通知が翔君から返事を示した。  おはよう、グラタン食べたい。 「くそ可愛いな」  寝起きからヘビーな食い物の要求に、なぜかときめいた。本当に翔君はマイペースで可愛い。  ファミレス行こう、と返すと、スタンプで万歳の返事が来たせいで起き上がったはずなのに布団に沈む事になった。  これを無表情でやってると思うと無性に可愛くて頭を撫で回したくなる。  予定が決まった、と心を躍らせながらシャワーを浴びて着替え、通勤途中にあるファミレスに向かった。  翔君が要求をしてくれることが嬉しい。遊びに行く予定はまだ決めてないけれど、こうして仕事前にご飯を食べるくらいならよくある事だった。誘うのは主に俺からなのだが、それでも職場の飲み会に参加しない翔君とメシを食うだけでも珍しい。  しかもそれが翔君からのお誘いだったりすると、なおさら、心が浮くのも仕方ない。  けれども、珍しいから嬉しいのか、翔君だから嬉しいのか、最近ちょっと分からなくなっている。  最初は珍し過ぎて夢を見てるんじゃないかとか思った。実際待ち合わせてファミレスだったかラーメン屋だったかに行って食事して仕事場に着いてから、夢じゃなかった、なんてそこで初めて実感したくらいだ。  そして自分の内心が持つ最大の謎は、ひたすら翔君がクソ可愛く思える事実。そればっかり言ってる。  ぶっちゃけ翔君の見た目が一般的に可愛いというより、ミステリアスな格好良さであることは承知している。 雰囲気は、ぼんやりしていてのんびりしていてマイペース。だけど仕事は丁寧で、低くて小さめの声だけど接客だってハキハキしている。そのギャップがたまらん。  暇な時間に二人で空き部屋で映画鑑賞してる時なんて、たまに俺の肩に寄りかかって寝てたりするのだから、心を許されている感覚に浸って顔面崩壊が抑えられなくなる。 そしてつい触り心地が大変よろしい髪を手で梳いたり、頭を撫でたりしちゃったりして、恋人同士かよと自分に自分でツッコミを入れる始末である。 俺自身には性別の概念はあっても関係性に偏見や差別は無いのだが、そういうのはまだ、ネタという意識でいないと白く好奇な目で見られてしまうだろう。翔君がどう思っているのかは分からないから、甘ったるい空気を醸し出してしまうような接触は控える。 とはいえそれが男女だったとしても、人前じゃあ控えるべきだとは思うけれど。異性だろうが同性だろうが違いは無い。  それでもやっぱり、やばいなとは思う。  何が、とははっきりしてない。  だけど日を追う事に、これはやばいなと思う事が増えていくのだ。自分の中で越えてはならない白線の上につま先が乗っていて、踏み越えた瞬間に鮮明になるを自覚した時、俺は今まで通りに居られるのだろうか。 これを不安にしたらいけない、と己の勘が警告してくる。不安は寂寥感を呼ぶから、これはちゃんと見定めないとならないのだ。
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