桜日side

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桜日side

ゆっくりと自分が見える世界が変わっていく。 十年前の暖かい春の日…。ぼやぼやと見えていたものがはっきり自分の目にうつる。目の前の机に置いてある時計を見た。 朝八時。またこの季節が来た。窓を見ると結露が出来ている。病院中は暖かくても、まだ外は寒いんだな。 私はまだ重い体を起こし、伸びをした。右からはずすめのちゅんちゅんと鳴く鳴き声、左からはバタバタといつものように騒がしい廊下の音がする。 大きなあくびをして、ベッドの下に置いてあるスリッパを履く。自分の病室を出て隣の病室を覗く。 「おーい、春人ー」 ぶっきらぼうに彼の名前を呼び、病室を見渡すが誰もいない。また桜の木を見に行っているのだろう。
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