好きの種類なんてしらない

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拓也は、突然鳴ったインターホンを見ると、ため息をつきながら玄関へと向かった。  ドアを開けると、美佳が立っていた。 「拓兄、家に入れて」  美佳は、拓也に缶酎ハイが入った袋を押し付けた。 「またかよ。いい加減にしろよ」  拓也は、美佳に向かってため息をついた。 「かわいい妹が落ち込んでいるんだから慰めてよ」 「偽物だろ」 「うるさいな。妹みたいなもんでしょ。それより、早く入れてよ。寒い」 「俺はお前を妹とは認めてないからな」  拓也は、しぶしぶながらも、美佳を家に入れた。  美佳は、拓也の3つ下の幼なじみだ。  母親同士が仲良く、しかも家が近かったので、小さい頃は一緒に遊んでいた。まるで兄と妹のようなに育ったからか、こうしてお互い一人暮らしを始めても、何かあると美佳は、こうやって拓也の家にやってくるのだ。 「今回は、何があったんだよ」  拓也は、つまみを準備しながら、美佳に話しかけた。美佳は、すでに缶酎ハイを一人で開け、飲み始めていた。そして、今は、クッションをお腹に抱きながら、唸っている。 「告白したら、振られた」 「それは、御愁傷様」 「拓兄、慰めてる?」 「もちろん」  拓也は、つまみをテーブルに置くと、美佳の隣に座った。 「絶対上手くいくと思ったんだよ。だって、先輩、私のこと可愛くて好きって言ってたし」 「でも、駄目だったのか」 「うん。私に対する好きはそういう好きとは違うって」 「あー、Loveじゃなくて、Likeってやつだって言われたのか」 「それ!何よ、それ。日本人なんだからLikeとかLoveかじゃなくて好きか好きじゃないかの二択でしょ。そんな紛らわしい好きなんて私の中には存在しない」  そう言うと、美佳は缶酎ハイをぐっと飲んだ。 「そんな極端な中でお前は生きてるのかよ」 「私の好きは、常に一つなの。そんな違いなんて存在しないの」 (こいつ今日は酔いが早いな) 「拓兄、聞いてる?」 「聞いてるよ。お前はそういうけど、物や動物とか人以外の物に対する好きと人に対する好きは違うだろ」 「それは違うの分かってるよ。私が聞きたいのは、人に対する好きの違い。そんなにバカにするなら、拓兄が好きの種類を教えてよ」  拓也は、今の美佳の様子に今日何度目かのため息をついた。 「分かった。だったら、教えてやる。こっち向け」  拓也の言葉に美佳は拓也と向かい合った。 「後悔するなよ。お前が言ったんだからな」 「うっ…。後悔なんかしないよ」 「じゃあ、確認だけど。お前は俺の事好きか嫌いだったらどっちだ?」 「そんなの、好きに決まってるでしょ」  美佳は、拓也に満面の笑みで答えた。すると、拓也は突然美佳の手を握った。 「じゃあは、この人と手を繋いでもいいと思える好きか?」  美佳が大きく頷くのを見ると、今度は拓也は美佳をぎゅっと抱き締めると、耳元に囁いた。 「じゃあ、この人に抱き締められたいと思う好きか?」  美佳がビックリして固まっているのに気がつくと、拓也は、少し笑いながら体を離した。 「ちょっと、拓兄!」  美佳が怒って文句を言おうとした瞬間、拓也は、くちびるが触れるギリギリまで顔を近づけた。 「うっ…!」 「それとも、この人にキスしたいと思う好きか?」  美佳は、真っ赤になって固まってしまった。そんな美佳に構うことなく、拓也は続けて尋ねた。 「美佳の俺に対する好きは、どれ?」  しかし、美佳からは答えは返ってこなかった。そこで拓也は、いまだに状況を処理切れていない美佳に対して、追い討ちをかけるように言った。 「ちなみに俺は」  そういうと、拓也は、今度は美佳のくちびるに軽く触れるだけのキスをした。 「これだから」  美佳は赤くなりながらも、いつもと違う拓也の様子に驚いて尋ねた。 「拓兄、もしかして酔っぱらってるの?」 「まさか。俺、まだ酒開けてないけど」  拓也に言われて、美佳は、テーブルを見た。そこには、開いていない缶酎ハイがあり、それに気がついた美佳は目を丸くすると、ますます赤くなってうつむいた。そんな美佳の顔を覗きこむようにすると、拓也は言った。 「さあ、教えてよ。美佳の好きをさ。美佳の好きは一択なんだろ」 「そうだけど…」 「後悔しないんだろ」 「分かった」  美佳は、顔をあげ拓也を見た。 「私の好きは…」  美佳は、一つ選ぶと、拓也に好きの気持ちを伝えた。
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