あの日のこと

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 漆黒の闇にうっすらと見える海の表面はでこぼこと歪で、その凹みに吸い込まれるのではないかという恐怖そのものだった。  しかし、ある先輩がスマートフォンのライトで海の表面を照らした瞬間その姿は一変した。表面に漂うプランクトンたちが一斉に青白い光を放ち、この世ではないどこかへワープしたように足元がふわふわと揺れる。自分が海の上を、宇宙を漂っている海月のように思えた。    それを見たのは、大学に入学してすぐ、友達に誘われてアウトドアサークルの見学に行ったときのことだった。毎年、見学に来た新入生を海蛍(うみほたる)を見に連れて行くのが恒例らしい。  インドアな私は入部する気などさらさらなかったのに、海蛍のあまりの美しさと、せっかくできた仲間たちとの別れの辛さから迷っていた。  先輩たちから無理に活動に参加しなくてもいい、飲み会参加だけの人も多いから、と誘われ、最初から幽霊部員でいいならと宣言して入部した。  活動はその海蛍を見に行って以来、飲み会に一、二度参加した程度だった。  そんな私が大学二年生になった夏休み、サークルのサマーキャンプに参加することになった。誘ってくれた友人のすずちゃんでさえ私の受諾に驚いている。  小学生のころ、家族と親戚一同で山にキャンプに行き迷子になったことがあった。捜索願いまで出され、それなりに世間を賑わせるニュースにもなったらしいが、子どもだった私にはどれほど話題になったのかがイマイチ把握できていない。  大きな事件になったにも関わらず、キャンプに対して悪い印象がないのは、あの日出会った男の子のおかげだと思う。
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