何だか、アガってきちゃって

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何だか、アガってきちゃって

 みなさん、こんにちは。伊勢嶋雪兎、16歳ホモです。作者が、タイトルを「転校してきたサイコパスでどSのイケメンに、何でか溺愛されてます」に改題するか悩んでるそうですよ。マジでマジで、勘弁して頂きたい所です…。  本日は、土曜日。前にも言った通り、午前中は学校の授業がありました。そんで午後からは、幼なじみのトオイくんに勉強を教えていましたよ。フルネームは、岡坂登生くん。中学3年生の15歳で、近所の岡坂接骨院のひ孫さんです。うちのお祖父さんが院長と旧友なので、家ぐるみでのお付き合いをしています。  数年前にご両親が離婚されて、トオイくんはお父さんと二人暮らし。お仕事で家に居付かない人なので、実質一人みたいなもんですけど。何で、お母さんの方に付いていかなかったんだろう…。多分、ひいお祖父さんや他の知り合いと離れたくなかったんでしょうけどね。ところで他にも誰か、似たような境遇の人がいたような…。  まぁ、いいです。健気にも、家事の一切合切をトオイくんが担っていますよ。本人の性質に合っていたのか、さほど苦ではないようです。さっき彼の作ったお昼ごはんをご馳走になりましたが、なかなかに絶品でしたからね。  「雪兎くん、やっぱり勉強教えるのうまいよね。学校や塾の先生より、よっぽど分かりやすい。これなら受験、何とかなりそう」  トオイくんが、そう言ってくれました。高校は、俺がいま通っている男子校を志望しているそうですよ。理由は、「家が近くて楽そうだったから」。言うて、チャリに乗って何十分かはからっ風に吹かれますけどね。  「雪兎くんが、教師だったらいいのにね。生徒たち、みんな喜ぶよ。将来、目指してみたら?」  教師、ねぇ。ちょっと、憧れなくもないです。3人の兄と違って医者の道は目指しませんから、小説家よりはよっぽど地に足のついた夢でしょう。投稿サイトのフォロワーさんも増えてきたので、なかなか諦めきれない所ではありますが…。  「そういや、話変わるんだけどさ。小説の投稿サイトで、前から熱心なファンの人がいるって言ったじゃん。あれ、知ってる人だったらしいよ」  「知ってる。あお君でしょ。本人の口から、直接聞いたから。雪兎くん、前みたく仲良くなれて良かったね」  「…え?トオイくん、もしかして彼の事知ってた?」  「?知ってたって言うか、むしろ雪兎くん…。あぁいや、何でもない。そっか、そんな事もあるのかな。ごめん、今のは忘れて」  「???」  何か知らんが、勝手に一人で納得して勝手に謝られたぞ。割とハッキリ物を言う、彼らしくもない。結局、この後は何を聞いてもはぐらかすだけだった。  代わりに…って言ったらいいのか、お使いを頼まれた。昼ごはんの残りの肉じゃがを、彼のひいお祖父さんに渡してほしいって。だいぶ前に奥さんを亡くして男やもめだから、ちょいちょい手作りの料理を持って行ってるとは聞いてた。だけどトオイくんが、こんな風に俺を使うなんて珍しいなぁ…。  と思っていたけど、接骨院まで行ったらその思惑が何となく分かりました。玄関に、見覚えのある自転車が置いてあったからですね。もちろん、奴のですよ奴の。そういや、捻挫を理由に今日も練習を休むとは言ってた。そんなに、歩くのが不便そうには見えませんけどね。  中に入りましたが、診察室には院長…ソウスケさんも一ノ瀬くんも姿が見えませんでした。奥にある自宅部分の居間で、二人してお茶でも飲んでるっぽい。ってかちょうど今、すごい楽しそうな笑い声が聞こえてきたけど…?  「えぇ〜?ちょっと、信じらんないな。マジですかぁ、それって」  「マジじゃよ、大マジ!そしたら雪兎くんの奴、何て言ったと思うかの?『そっ、そんなぁ駄目だよぉ…。俺ぇ、こんな状態で…あはっ♡彼と顔、合わせられないぃ♡♡♡』なんつってな、ヒャヒャヒャ!って、うおお!ゆ、雪兎くん。来ておったんじゃな」  来ておったんじゃな、じゃねぇよ。何ださっきの、こっ恥ずかしいセリフは。俺は今までの人生で、そんな言葉を口にした覚えはないぞ。でも口調はちょっと俺に似てたのが、何だかとっても腹立つな。  「こんにちは、ソウスケさん。人の事をダシにして、とっても楽しそうじゃないですか。二人がこんなに仲良しだったなんて、ちょっと意外ですね。もしかして、昔からの知り合いだったとか?」  「そ、それはえーと…ほら。一ノ瀬くんは昔、少しの間だけ群馬におったじゃろう。その時にも、同じように診察しておったのじゃよ…。マジじゃ、大マジ。それ以外の事は、わしゃ一切知らんぞい。なーーーんも、知らん…」  これまた、白々しい。普段はかくしゃくとしているくせに、都合の悪い時だけボケたふりをするのをやめて頂きたい所だ。でも、まぁ…。いつまで言っても、仕方のない話だな。例の肉じゃがだけ置いて、さっさとこんな所からは立ち去ろう…。  と診療所を後にしたら、不意に一ノ瀬くんから腕を掴まれた。何か俺、彼からしょっちゅう腕掴まれてない?そしてぬけぬけと、話しかけてきやがった。  「ゆーきとっ!何だよ、つれないなぁ。おれたち、晴れて付き合う事になったんだろ?そんな、一人でさっさと帰ろうとすんなよな」  「あぁ…。誰かと思えば、クラスメートのど()男くんじゃないですか。今日は一体、誰を手玉に取って遊ぶつもりなんですか」  「人聞きが悪いなぁ!ってか、何だよそのあだ名。もっと昔みたく、『あお君♡』って呼んでくれたら嬉しいな」  「ハート付けでは、呼んだ事ないですけど?ってか、名前で呼んだりもしません。だいたい昔も何も、君とはつい一ヶ月ほど前に…」  「まぁまぁまぁまぁ、いいじゃん。そこら辺の事は。ってかおれは、Sとかじゃなくてノーマルだし。雪兎がどMだから、仕方なく合わせてるだけじゃん?」  「はぁ!?何を突然、どの口が言い出すかと思ったら。そんなの絶対、おかしいよ!この俺が、どMだなんて…。本気で、言ってる訳?」  「マジじゃよ、大マジ…。って、ソウスケさんの口調うつっちまった。雪兎はさぁ。実家の権力もあって、今までいじめられた事ないじゃん?周りのいじめも、決して許さなかった。見た目に似合わず、正義感は強いからな。だけど心の奥底では、誰かにいじめられたいって強い願望があったんだよ。これは由香里姉ちゃんじゃなくて、おれ自身の見解な」  「ないわー。ぶっちゃけ、あり得ない。そりゃ昨日は狭い所であんな事やこんな事されて、ちょっとだけ…。こ、興奮したけどさ。それに自分の人生、これで終わりかと思ったら…。何だか、アガってきちゃって」  「気持ちよかったんだな?」  「…はい」  「よく、言えました。それじゃ今おれにして欲しい事も、はっきり口に出して言ってみろよ」  「…あお君に、いじめて欲しいです。それはもういいように弄ばれて、身も心もめちゃくちゃにされたい…」  「ちゃんと、言えたじゃねぇか!雪兎のそう言う、正直な所大好き♡それじゃこの土日は、さんざんいじめてやるからな…。って思ったけど、特に何の予定も立ててなかったな。おれは明日も練習休むけど、久々にデートする?」  「言うほど、久々でもないけど…。でも、もともと明日は行きたかった所があるんだ。あんまり、デートに相応しい場所でもないんだけど」  「オッケー、オッケー。雪兎の行きたい所なら、どこにだって付き合うぜ。何せおれ、雪兎の彼氏なんだし」  そう言って、道の真ん中で堂々と手を繋いできた。もちろん、指と指を絡める恋人繋ぎね。やだなぁ、人の目もあるってのに。でも…いいかなぁ、たまには。本当は、こうやって手を繋いで歩く事にちょっと憧れていたんだ。  それに、言うほど視線を感じる訳でもない。これは、通行人の方々が気を使って見ない振りしてくれてるんだろうな。全くもって、感謝の至りです…。と思いきや、中に大声で俺たちを呼び止めてくる奴がいた。しかも、ちょっとどこかで見たような顔だ。  「あれー!?小学校の時に同クラだった、伊勢嶋じゃん?何、男同士で恋人繋ぎしてんの?やっぱお前、ホモだった訳?」  うわぁ、嫌な奴に目をつけられた。彼自身が言ってた通り小学校ではクラスメートだったんですけど、中学から前橋の方に引っ越したと聞いています。たまたま、高崎に戻っていた所に出くわしてしまった感じでしょうか。  悪い奴ではない。それこそ、「いじめ」をするような奴ではありませんが…。ちょっと色々、空気を読まない発言をする所があるんですよね。空気は吸うものであって、読むものでないと言うのは百も承知ですが。  「ってか相手の男、良く見りゃ一ノ瀬じゃん?めっちゃ久しぶり。ここ群馬に、帰ってきてたんだな」  「?あお君…一ノ瀬くんの事を、知っているの?」  「そりゃ、知らない筈あるかよ。こいつ小学生の頃、母親がW不倫…」  次の瞬間、目を疑った。それまで何事もないようにすれ違っていた通行人たちが、突然彼に襲いかかったのだ。「その先は、言わせないぞ」って感じの勢いだった。そこら辺のサラリーマンが、主婦が…。柔道と思われる技で彼を取り押さえ、FBIに連行される宇宙人よろしく彼をどこかへ連れて行ったのだ。  「あ…あお君?今のは、一体…」  やっとの事で聞いた俺に、何ともすっとぼけた表情で彼が答えた。  「W不倫ってさぁ…」  「はい?」  「昔は、一人の人間が同時に二人の家庭持ちと浮気する事だと思ってたんだよな」  「それは、二股って言うんじゃないかなぁ…。自分のパートナーを含めれば、三股?知らんけど」  ってな訳で?次回は久々に楽しい楽しい、デート回です。始まる前から、もう不穏な空気しか漂っていませんけど…。
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