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「私を笑った罰です。簡単には見せてあげませんよ」
「あーっ、ずるいぞ真幌。そんな高いところにやったら、奪い取れっこないだろ」
それからしばらくの間、攻防が続いた。
必死になって追いかけてくる颯太の姿に、そろそろ潮時と判断すると、真幌は颯太の後ろにさっと立つ。
包みを持った右手を颯太の前に回し、空いた方の手でその頭をくしゃりと撫でた。
「まったく。いつだってすばしっこいんですから、颯太には参りましたよ。ほら、気になるのなら開けてみてください」
「はぁ、はぁ……、つ、疲れた……。あー、もう! 真幌ってさぁ、たまにすっげー大人げねぇよな。でも、やったー! 何だろな、あ、何か甘い匂いがするな」
颯太があっという間に風呂敷を取り去ると、現れたのは透き通った広口瓶。颯太が言った通りに、瓶からは甘い香気が立ち昇る。
中にたっぷりと入れてあるのは、金柑の実の甘露煮だ。それを目にするなり、颯太が嬉しそうに頬を上気させるのを見て、真幌は思わず声を立てて笑った。朝から仕込みをしたかいがあったというものだ。
「わっ、これ、金柑だ……!」
「颯太、今日は誕生日でしょう。これはお祝いです。また一つ大きくなったんですから、けんかばかりしていないで、ちゃんと妹や弟の面倒をよく見るんですよ」
「うっ……、何だよ。真幌まで、そういうこと言うなよな」
「まぁ、真幌ちゃん、わざわざどうもありがとう。颯太の誕生日、覚えていてくれたのね。ほら、颯太もちゃんとお礼を言うのよ」
「わかってるよ。真幌、ありがとな。おれ甘い物大好きだからさ、大事に食べるからな。お礼に今日は、真幌のこと神社の近くまで送ってやるよ」
「ご親切にどうも。でも、送ってくれなくても大丈夫ですよ。一人でもちゃんと帰れますから」
「あら、無理しちゃだめよ。前みたいに迷ったあげくに神社に帰るのが夜遅くなったら、和音さんからまた嫌みを言われちゃうでしょ」
「それは、そうですけれど……」
虚勢を張っていた真幌の顔は、和音の名が出てくるなり急に曇り出す。
『おやおや、驚きましたね。こんなに大きな迷子は生まれて初めて見ましたよ』――穏やかな表情で、しかし愉快げな色を声音に隠そうともしない和音の姿が、ありありと目に浮かんできたからだ。
和音は真幌が住み込みで巫女をしている神社の宮司にして、路頭に迷っていた真幌を拾い、巫女として奉職できるように取り計らった人物だ。
かつては都に居を構え、凄腕神官の名を馳せていたらしいが、噂なので事実かどうかは定かでない。
確かなのは、真幌は彼に、朽ちかけていた田舎の神社を立て直すために手が必要だからと拾われた。
そして、それからというもの、境内や社の掃除はもちろんのこと、近隣の集落への買い出し、番犬として飼っている白柴の散歩、果ては神社を遊び場にする子ども達の相手などなど、あらゆる種類の雑用を命じられてきたということだ。
真幌が素直に頷くことができずにいる一方で、颯太は得意顔で胸を張り、真幌に手を差し出してくる。
「じゃあ、決まりだな。ほら、真幌、行こうぜ」
「うぅ、何とも言えず、屈辱的です……」
「まあまあ、困った時はお互いさまって言うでしょう? 真幌ちゃんにも和音さんにも、普段からずいぶんお世話になっているのだもの。たまにはこうして手助けさせてちょうだい」
文乃にまでそう口添えされては、それ以上渋ることなどできなかった。
そうして真幌は、自分よりも一回りも二回りも小さな少年に手を引かれ、帰途につくことになったのだった。
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