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第6話 涙もろい領主ホルヘ
───書斎室にて。世界史、経済史、民族学、様々な書物が整頓された本棚が並び、床は深紅のカーペット。室内にはインクの匂いが漂い、艶のある書斎机の上には書類が積み重なっている。
「ふぅ………」
神経質な表情を浮かべ、執務整理をしているのはホルヘ・ヨハーソン伯爵。艶のある栗色の髪、スーツ風の貴族服、年齢は40代後半。納税書や申請書、請求書。あらゆる書類が何枚と山積みになり、判子や署名などを記入する。
すると、扉をノックする音が響き渡る。
「何だ?ルナか?」と、タメ息混じりで言う。
「私よお父さん」
書斎室に入って来たのは愛娘のアリエル。
突然の娘の登場に、ホルヘは驚いた様子で立ち上がる。
「お前………アリエルか?」
夢でも見ているのか。と、席から立ち上がり、歩み寄る。
「ただいま、お父さん………」
「アリエル………」
ホルヘは涙を流し、感極まる。まるで全身に張り詰めていた緊張の糸が切れてしまったような気持ち。
「やだ、そんなに泣かないでよ。お父さん………」
父親の泣く姿に、アリエルは引き気味に驚く。
「バカモノ、娘が帰って来た時に泣かない親がいるものか………」
ホルヘは泣きながら言う。
アリエルは戻って来た理由を話をしようと思ったのだが、肝心のホルヘが未だに泣いている為、話にならない。父は、こう見えてよく涙を流す性格だ。何かに感動した時、何かに勝利したり成功したり誰かの成功を喜んだり、あとはこうして再開した時や。そんな時に泣く。
★★★★★★
───それから、ホルヘが落ち着いたのは泣いてから15分後だ。
「お父さんは相変わらずね」
「やかましい、私は昔から何事も全力な性格だ。成功したりしたら泣くくらいが良いのだ。お前も娘なら知っているだろ?」
「まぁね、娘の前だとちょっとウザいかも」
「なっ………」
アリエルのさり気ないセリフに、父ホルヘはピキッと固まる。自覚はある、むかし妻のルナにプロポーズをして、オッケーを貰った時に泣いて引かせた事もある。やはり、簡単には性格は治らないものだな。
「それでね、私が帰って来た理由なんだけど………」
「まー、大体は分かる。どうせケビン皇子に婚約破棄されたのだろ?」
「よく分かったね」
「あれだろ?皇子の女性関係だろ?ま、ウチみたいな田舎貴族の娘が、皇族と上手くいくわけないって思ってたよ。あとはお前の事だ、どうせ国民の税金で毎回、パーティするなって、そんな暇なら国民の為に政策を実施しろとハッキリ言ったのだろ?」
ホルヘの言葉に、アリエルは視線を横に反らす。
「お前はなぁ〜〜」
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