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「よしっ!屈め!」
二人、身を縮めドアの影に身を隠す。
外からは唸り声が聞こえてくるが近づきもせず遠ざかりもしていない。
猟銃を使い、下からルームミラーを動かす。鏡の世界に写ったゾンビどもはうまくゴリラぬいぐるみの方へと集まってくれたようだ。
音を立てぬようそっと指に挟んでいた弾丸を装填し直す。
「じいちゃん、ぬいぐるみあと一個だかんね。電池ない。」
「うむ。先ほどのゴリラは惜しいことをしたのう。」
幼ながらに眉をしかめる孫。その表情が、誰のせいだと物語っていた。
機を伺いながら姿勢を正して座り直す。
パーキング出口にはまだゾンビが彷徨いているが少なくとも壁にはなっていない。興奮もしていない様子。
「坊、ワシの股の間にこい。撃っとる間ハンドル持て。」
「え、大丈夫か?」
「大丈夫じゃ。パワステじゃし、真っ直ぐ持ってるだけでいい。無事パーキング出たら即持ち変わって運転するからの。ただ、ゾンビに触れればぶれるかもしれんからそれを抑えるんじゃ。」
「うー、あい。」
全身に力を入れてハンドルを握る孫だが、まだ早い。そっと手を剥がして笑う。
「まだ早い。ワシが出口の邪魔な連中を撃ち始めたら頼むぞ。遊園地の時よりもゾンビが近いからの。多少荒くもなるがやむ無しじゃて。」
言いながらアクセルを少しずつ踏んでいく。
緩やかな加速。右へと曲げて出口に顔を向ける。途端に右側から唸り声の雨。ぬいぐるみよりも大きく重たい音に気づいたようだ。
「よっしゃ!行くぞ!」
「あい!!」
ぐんぐんと加速していく軽トラ。アクセルを踏みながら窓から身体と銃を出して照準を付ける。孫は必死の形相でハンドルを固く握りしめている。
海風の心地よさと唸り声の不快さとが入り交じった空気を胸いっぱいに吸い込み、そして止める。
だだん!!
ほぼ一つに聞こえる速撃ち。二匹同時に崩れ落ちるゾンビども。出口を突破したら左へ行く予定。そのルート上で脅威となりそうな死人はラスト一匹。
熟練の装填、熟練の狙い。がくん!不意に揺れる車体。右側!
気配とも言えない、雰囲気だけで見る前に察知し、猟銃の銃床を引き突き出しながら振り向く。そこにはやはり荷台にしがみついた女ゾンビ。左手を突き剥がしてもう一発を顔面へ。剥がれ落ちるゾンビを見ている間はなく、すでに車はパーキング出口。
「左じゃあっ!!」
咄嗟に反応し、左へと舵を切る孫。真っ正面に撃てなかった邪魔ゾンビ。渾身の力を込めてアクセルを踏み込みハンドルを奪う。
どんっ!!がががががっ!!どぅん!!
撥ね飛ばしたそれを踏み越え半ば跳ねるようにして着地する軽トラ。だが息つく暇もない。前方の道路にはまだまだゾンビどもが散在している。
「坊!シートベルトしとけ!」
「あい!!」
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