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二人分の布団を運び入れ、ジャンケンで先に寝る方を決めた結果自分であったため布団に潜り込む。
枕の下に隠した柳刃包丁がほんの少しの違和感。
勿論最悪の事態なぞ起きないに越したことはないのだが備えるしかないのだ。そして最悪の事態になったとき彼女はそれに対処できないだろう。ならば僕がやらなければ。そう覚悟を決めて目を瞑る。
目を閉じながらも神経は張りつめている。
想像ばかりが駆け巡る。
変質してしまった彼が彼女へと襲いかかり、そのそれへ。彼の左目のあった場所へ包丁を突き刺すシーンが何度も再生されてしまう。
イメージはできる。
だが実際にはできるのか?怖くて怖くて夜の闇が恐怖を覆い尽くすまで実験準備室に閉じ籠っていた僕が、わずかな関わりとはいえ知己の彼を?再度殺せるのか?
できるわけがないという思いと、恩のある彼と彼女を守るためにはやらなくてはならないという想いが交差しては消える。
変質した彼であってもだ。変質したサスケ君であっても、その彼に長谷川さんを殺めさせるわけにはいかないのだ。そして長谷川さんに逆をさせるわけにはいかないのだ。
眠れずにただ時間だけが過ぎていく。
あああああああ
小さく漏れ出る唸り声。それは妄想の世界と現実世界の狭間を漂い反応が遅れてしまう。
あああああああ
「サスケ君!サスケ君!?私よ!私だよ!長谷川だよ!!」
彼女の声に狭間の意識は一気に浮上し飛び起きる。左手には包丁。
ベッドに押し付けるようにして叫ぶように呼び掛ける長谷川さん。両手を無闇に暴れさせるサスケ君。
「長谷川さん!どいて!!変質しているっ!感染!手遅れだ!!」
言いながら彼女の肩を掴む。
「違う!違いますっ!!」
振り払われてしまう。彼女の背中越しに見える彼はすでに再死人のようにしか見えない。まだ両手を振り回して暴れている。
「どけぇっ!!」
無理矢理に彼女を引き剥がし床に落として彼へと馬乗りになり包丁を振りかぶる。
サスケ君であったものの視線は定まらず、その口は言葉にならない音を発し、その両手は遮二無二空を切る。
呼吸が止まる。振りかぶった手を下ろせない。振り下ろせない。
殺す。もう一度。今度こそ。誰か被害者を増やさないためにも。自分が家族と再会するためにも。サスケ君が最も大切にしている少女のためにも。この、
この。
この両手を振り下ろさなければならない。
ああああああああ!!
あああああああ!!
「あああああっ!!」
あああああああ!!
「あああああああ!!」
シンクロしていく己と彼との唸り声。
それが止む、一瞬の間に。
渾身の力を込めて振り下
どんっ!!
急速に反転する視界、ベッドから転がり落ちる。突き飛ばされたのだ彼女に。起き上がり「違う!!違うんですっ!!椎名さんよくみて!!」
先ほどの僕の場所に彼女の華奢な姿。木漏れ出でる月光に照らされたそれは美しい。一瞬見とれてしまう。
「何が違うって言うんだ!早く!早く殺してやらないと!」
「掴みかかってこないんです!噛みついてこない!襲ってきていないんですっ!!」
再び押し退けようとした手を止める。
掴みかかってこない?襲ってこない?
・・・確かに。
「・・・どういうこと?」
「今まで見てきたゾンビさんたち。死人たちは皆こちらに気づいたならば全力で襲いかかってきてたように思います。でもサスケ君は違う!
何か・・・、何かに抵抗しているみたいに。」
包丁と手を下ろす。
確かに彼女の言う通りだ。狂乱しているように見えたその素振りは、それでも上に乗った彼女を傷つけようとはしていない。捕らえようともしていない。ただ迫り来る何かを振り払うかのように振り回されているだけだ。視界には確実に入っているはず。ゾンビならばかじりつくはず。それをしようとしていない。
思わず踞る。
「まだ・・・戦っているってことか。」
「そう・・・だと思います。」
呟きながらサスケ君の頬を撫でる彼女はまるで聖母マリアのようであった。
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