オーマイドッグ

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オーマイドッグ

 私が自分のオリジナリティを求道者の如く追う決意を決めていると、そんなことなどお構いなしに、リビングにひょこひょこと歩いてくる姿が見えた。 「ワン!」  我が家の愛犬・ドンスケだ。  黒柴はそれだけでも愛嬌抜群なのだが、うちのドンスケはそれに加えて人懐っこさも兼ね備えている。ちょっと散歩に行くだけで人気者だ。  名前の由来は知らない。気付けばパパが勝手にそう呼んでいたらしく、誰も訂正することなく2年が経過し、自他ともに『ドンスケ』と認識している。  可愛いのは認めるが、私はコイツがあまり好きではない。 「ンクー、ンクー」  ドンスケは鼻を鳴らしながら近づいてくると、私の前でコロリと寝そべり、腹を見せてコチラを見つめてきた。撫でて、とでも言うように。 「珍しいじゃん、私になんか頼みでもあるの?」 「クーン」  おそらく、おやつでも強請(ねだ)っているのだろう。今日は家に私しかいないから、消去法で私に愛想を振りまいているのだ。  私はドンスケの腹を、しばしの間さわさわと撫でてやった。するとドンスケは、突然バネを効かせて起き上がると、お座りのポーズへと移行した。 「ワン」 「やっぱり何か下心があるな」  私はコイツのこういうところが嫌いだ。  ドンスケは多分、家族で一番私のことが嫌いだ。なぜなら特に構ってやることもないし、ご飯をあげたりもしていない。ドンスケにとっては無価値と考えられても致し方ない。  なのに、だ。  コイツは今、おやつ欲しさに、そんな無価値な相手に腹を見せて服従を示したのである。嫌いな相手に服従を示すって、どんな拷問なの。  それを牙を備えた誇り高き狼の末裔とも言える犬が、飄々とやってのけるのだから、私はちょっと白けてしまう。 「お前の狙いはこれか」  私はソファーの脇に置かれていた『おやつにぼし』の袋を見せる。するとドンスケはハッハッと息を荒げて尻尾を振った。  私は袋から2、3本のにぼしを掴むと、ドンスケの前に投げる。ドンスケは嬉しそうにそれを貪り始めた。私はその姿に向かって吐き捨てる。 「私は、お前みたいにはならないから」
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