エピローグ

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フェレウスは、正門へと向き直る。そして、ゆっくりと(おもむろ)に伸ばされた手の先には突如、直径2メートルほどの大きな黒い穴が現れたのだ。 「なっ…なんですか、これっ...!ブラックホール…?!」 レミは驚きのあまり、()(とん)(きょう)な声が出てしまった。(かた)やフェレウスは、至って冷静で落ち着いている。 「ブラックホールか…まぁ確かに、見た目はそれらしいが...正しくはゲーテ、だ」 「ゲーテ…?」 ゲーテ…それは、魔界と人間界を繋ぐ通り道のこと。魔力で空間に穴を開け、時空の(ゆが)みを作り出すことで人間界へと繋がる道が出来上がるらしい。またもや非現実的な事象に思考が追いつかなくなってしまう。だがしかし、目の前にそれがあるのだから疑いようもない。世の中にはまだまだ不可思議なことがあるものだと、レミはうんうんと頷き感心した。 「行くぞ…レミ...」 「えっ...あ、待ってくださいっ...」 自分の名を呼ぶその声に、心が引き寄せられてしまう。分からない...不思議な感覚。でも確かに、心の奥がほんのりと温かくなっている。自分に伸ばされるその手を取り、レミはゲーテの中へと入っていく...。 全方位、真っ暗だ。そして不思議なことに、足は地に着いておらず宙ぶらりんな状態。まるで暗闇に飲み込まれてしまったかのような錯覚に(おちい)る。レミは、無意識に身を縮めていた。けれどその手が、自分を導いてくれた…気がつけば目の前には、見慣れた夜空が広がっていた。 「着いたぞ、人間界に」 「ほんとだ...いつもの空...でも何でだろう、いつもより月が近くに見え…って、きゃぁぁぁ!!」 レミは突然叫んだ。それもそのはず、魔界からゲーテを通り、気がつけば人間界の上空にいるのだから。一瞬くらりと意識が遠のきそうになるも、なんとか耐えきる。 「ふぇっ...フェレウス様っ...!絶対に離さないで下さいよっ!?冗談とか今は無しですからねっ…」 「っ…煩いなっ…耳元で(わめ)くなっ、暴れるな!お前がじっとしていれば離しはしないっ…」 ぎゃーぎゃーと言い合う二人。その時だった、じたばたと暴れるレミの臀部(でんぶ)に、フェレウスの手が意図せず触れてしまった。 「ひゃっ...!何するんですかぁー!」 べちんと、大きな音が鳴った。フェレウスは、見事なまでの平手打ちを食らう。一瞬だけ、視界に星が飛んだ気がした。 「おっ…まえなぁ...いい加減にっ...」と、言いかけた時だった。気がつくとレミは、フェレウスの視界から忽然(こつぜん)と消えていた。 「ぎゃぁぁぁーー!!」 上空から一気に急降下していく。 レミは死を覚悟した。 「っ...テプル・プロイ・セーロっ...!」 フェレウスは、落ちていくレミに手を伸ばし呪文を唱える。瞬間、レミの体は淡い薄紫色の光に包まれた。そして、先程まで一気に急降下していた体は徐々にスピードを落とし、ふわふわと地上に降りていく。 「...たっ...助かった...?何これ…体がゆっくり落ちてく…」状況が全く飲み込めないでいると、フェレウスが頭上から降りてくる姿が見えた。 「お前はほんっとに…馬鹿なのかっ!」 (あき)(かえ)るその行動に文句を言いながらも、フェレウスはレミの手を掴み自身の体にぐいっと引き寄せ抱き留めた。 「すっ...すみません…」 「地上に降りるまでじっとしてろ…その間、自分の愚かな行為をちゃんと反省しろ…」 「は、はい...反省します...」 今になってようやく、レミはしおらしくなった。先程まで煩いくらいに暴れ回っていたと言うのに急に黙り込むものだから、フェレウスは調子が狂ってしまう。 二人は、上空から地上へとゆっくり降りていく。何とも言えない気まずい空気が流れ、しばらく沈黙が続いた。レミはその空気に耐えられなくなり何か喋ろうと思ったが、地上に降りるまでの間は反省していろと言われたので、無言のまま反省し続けることにした。 体が密着していて落ち着かない。顔が熱くて、心臓の音がドクドクと煩くて...。きっと、上空から急降下して驚いたせいだ。それ以外に理由なんてない…この時はまだ、そう思っていた。 夜空に浮かぶ月が、いつもより近くに感じられる。 手を伸ばせば届きそうな、そんな気がした。月の光を浴びると、何故だか心地が良い。心の奥が洗われて清々しい気持ちになる。あと十日ほど経てば、綺麗な三日月が見られるだろうか。 (...何だっけ…この感覚...ん〜まぁ、いっか...) 「フェレウス様...」 レミは、呆然と月を眺めながらぽつりと呟いた。 「…なんだ」 何処か遠くを眺めながら、フェレウスは返事をする。 「ダストンを出たら…次は、何処に向かうんですか?」 「...港町、アドルアだ」 月の光が二人を照らす。そして未来へと、時は止まることなく進んでいく__。 END… -------❁ ❁ ❁--------------❁ ❁ ❁--------------❁ ❁ ❁------- 現在、別作品の【重たい愛に、溺れてトロけて】を連載中のため、こちらの作品は続きを執筆するか未定となりました。スター特典等に続きを書くか、時間をかけてでも続きを書くか検討中です…*ᵕᵕ こちらの作品含め、別作品の応援もよろしくお願い致します!❁¨̮
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