第2章

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「…特殊能力…ちなみに、どんなものがあるんですか?」 「守秘義務がある、答えることはできん」 「そ…そうです、か…」 (今まで引っかかってたこの不思議な現象に関して、何かヒントになるものがあるかもって思ったけど…) 「予知能力はさておき、お前のあの力が本物なら…あいつらは()()でも欲しがるだろうな…」 その瞬間__。 脳内にまた、とある映像が過ぎった。フェレウスに頭を優しく撫でられたかと思ったら、彼は自分を置いて何処かに去っていく…。彼の背中を見つめる事しかできない自分がいて、とても寂しくて…そう思った時、脳内で叫び声が響いた。 【ぉいて…いかなぃでっ…!】 そしてレミは、はっと我に返る。自分を不思議そうに見つめるフェレウスの瞳が目の前にあった。 「フェレウス様は…私を特殊事件捜査部隊(SIU)に入らせようと、考えていますか…?」 「…ん?いや、考えていないが…何故そう思った?」 「いやっ…特に理由は無いんですけど…」 何故そう思ったのかと問われ、ドクンと大きく脈を打った。頬にかかる髪をそっとかき揚げ、耳にかける。平然を装いつつ、改めてフェレウスに問う。 「でも…仮にもし、私の持つ力が本当だとして…特殊事件捜査部隊(SIU)の人たちが私を必要だと…組織に入ってくれと言ってきたら…フェレウス様は、私をその人たちの元に送り出しますか…?」 口元が…声が震える。心臓がバクバクと煩い。 多分これは、一人になってしまうのではないかという…置いていかれるのではないかと言う不安からだ。自分から質問を投げかけておきながら、返ってくる答えを怖いと感じている。 「それはお前自身が決めることだろう。お前が組織に入りたいと希望するなら送り出す…別にそれを止めはしない。入りたくないと思うなら、私と共に旅を続ければいい、それだけの事だ」 この時、内心ほっと安堵した自分がいた。 ──『私と共に旅を続ければいい』 きっと、その言葉を言って欲しかったんだと思う。 突き放されたり、置いていかれることが怖かった…一人になる事が怖かった。フェレウスは魔族であり悪魔だ。自分を殺さないと言われたからと言っても、いつ裏切られるか分からないし、絶対に殺されないと言える訳でもない、保証は無い。危険な物と隣り合わせなのは、一人になる事と同じくらい怖いことのはずなのに…どうして自分は、彼の傍に居たいと思ってしまうのだろうか。 (自分を守ってくれる存在に、依存してしまってるのかもしれない……) ここ数日の間で、一人ではまともに生きていくことが出来ないのだと思い知らされた。外の世界を知らなさすぎるからだ。定職にだって着いていないし、お金だって数えられるほどしか持ち合わせていない。だからと言って、実家に戻る勇気なんてある訳がない。けれどあの日…満月の夜に、生け贄にされるくらいならば自分の足で外の世界に飛び出したいと、そう願った。そして、フェレウスに着いていくと決めた。 レミの表情は徐々に暗く沈んでいく…。その様子に気がついたフェレウスは、ソファから立ち上がりレミへと近づいた。 「…何を考えているのか知らないが、余計なことは考えるな、無駄に疲れるだけだぞ。旅を続けていく中で、自分自身のあり方を少しづつ見つけていけばいい」 そう言ってフェレウスは、レミの頭に軽く手を乗せた。彼の手は冷たかった。けれど、少しだけほっとした自分がいた。じんわりと視界が滲む。溢れそうになるそれをぐっと堪えて我慢した。 「だが何にせよ、このまま私に頼りっぱなしで旅を続けるというのは良くないな…。まずは私の傷を治癒したその能力が一体何なのかハッキリさせ、その力を上手く使いこなせるようになれ」 (今後もし、また今回のようなことがあれば…私としては都合がいい…) 「えっ…そ、そんな無茶ですよっ…!だってまだ、私自身なんのことかさっぱりですし…そもそも何から手をつけたらいいのか…」 「そうだな…じゃあまずは、私が仕事の度に怪我してお前の元に戻ることにするか…そうすれば嫌でもお前の力が目覚めるだ…」 「何言ってるんですかっ…だっ、ダメですよそんな、危険すぎますっ!」 そんなの無茶苦茶だ。自分の力を目覚めさせるためとは言え、わざと怪我を負うようなことをする等と、どう考えてもまともな発想じゃない。魔族は人間よりも回復力が高いと聞いたが、それ故の思考回路なのだろうか。だとしても、首を縦に振る訳にはいかなかった。もしまた今回のような大怪我を負ってしまったとして、そのとき絶対に助けられると保証はできない。 「もっと…自分を大事にしてくださいっ…」 「…なんで泣きそうになってる…?」 レミは、フェレウスの左目にそっと手を添えた。 「だって…左目の傷口、塞がったと言ってもまだ…少しだけ跡が残ってるじゃないですか…」 「は…?こんなの、あと数日もすれば完治する。魔族は人間と違って回復力が高いからな」 「だとしてもっ…毎回怪我して戻るだなんてことっ…言わないで下さいっ…!私はもう、フェレウス様が苦しむ姿なんて見たくないんですっ…うぅ…」 涙が溢れ、零れ落ちてしまった。感情的になって涙するレミを見て、フェレウスは困惑した。 「…お前はほんとに分からんやつだな…分かった、分かったから泣くな…そもそもさっき言ったことは冗談だ、()()みにするな」 「じょ…冗談?冗談だったんですかっ…うぅ…酷い…私を、からかったんですか?」 「いや…そう言うつもりは…まさか冗談が通じないとは思わなくてだな…」 レミは、何が何だか分からなくなった。安堵する気持ち、落ち着かなくなる感情、煩い心音、これからの目標…。一気に色んな事が入ってきて、心も頭もぐちゃぐちゃに掻き回されるような、そんな状況に精神も思考も追いつかない。どうにも出来なくて、ただ泣くことしかできない。 その時だった…。 「…レミ様のお声が聞こえたので駆けつけてみたら…女性を泣かせてはいけませんよ、フェレウス様…」 騒ぎに駆けつけたらしいブエルが、じっとりとした眼差しでフェレウスを見つめている。 「なっ…おぃ、言っておくが私は別に何も…」 「結果的にレミ様が泣いていらっしゃるという事は、そう言う事なのですよ」 ブエルは、遠慮なしにバッサリと言い切った。 流石は仕事が出来る大人の女性だと、レミは泣きながら感じていた。
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