第2章

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そこは、ファウスト城の屋根の上。冷たい風が頬を撫でる。薄紫色の空には、小さな星々が赤や青の色を放ち瞬いている。 「本当にあいつは…変な女だ…」 と、フェレウスはぼそりと呟いた。 (号泣しながら心配されるなど…初めてだな…) 生まれる前から定められていた自分の人生。三大悪魔の一人として、”時を司る”悪魔として、人間界の平和のために力を尽くさねばならない。そんな七面倒臭い仕事を、かれこれ500年ほどは担っている。そもそも何故、違う種族の国の平和のために魔族である自分が働かねばならないのかと、小さな頃から納得がいかなかった。暇を持て余しているからか何なのかよく分からないが、おかしな考えを持った一部の魔族が人間界へ降り、悪さをしているという事案。それは自分がこの世に産み落とされる前から続いている。 人間はそれを、それらが犯した罪を放置することは許さないと、どうにかして解決しろ、同族であるお前たちが解決すべきだと、訴えてきたらしい。 そして魔族と人間は、(いにしえ)の契約を結んだ。 ──『人間界を脅かす魔族を捕え、処罰を下す。それがお前たち、不滅(イモルタリス)が全うすべき責務である。よって、今ここに契約を結ぶ…』 当時、人間界の頂点に立っていた政府の人間が、魔界の頂点に立つ者たち、通称〈不滅(イモルタリス)〉に契約を結ばせ、取り仕切ったと言う。もちろん魔族は、何のメリットも無しにその契約を結んだ訳では無い。それを承諾し契約を結ぶ代わりに、魔族から人間に対しても何らかの条件を出したはずだ。しかし、その内容が分かる書物やそれを知る人物が今この世にはいないという事実。現在、不滅(イモルタリス)は何のメリットがあるのか分からぬまま、ただ契約に従って仕事を全うするしかない状態なのだ。堪忍袋の緒が切れて契約を放棄するという選択肢がない訳では無いが、その際、我々魔族に生じるデメリットがどんなものなのか、それを知る者さえもいないのだ。よって、何が起こるか分からないため、契約を放棄することも出来ずひたすら何百年、何千年と人間界の平和のために力を尽くすしかない訳だ。 魔界の頂点に立つ不滅(イモルタリス)という組織、それに属している魔族は五つある。(じゅう)(じん)族、(りゅう)族、巨人(きょじん)族、妖精(ようせい)族、そして悪魔(あくま)族。それぞれの種族から代表として複数名が選出され、その者たちが魔界を取り仕切っている。悪魔族から選出されるのは三人。精神を司る悪魔、時を司る悪魔、大地を司る悪魔…その者たちは、三大悪魔と呼ばれている。人間界で起こっている魔族による不祥事(ふしょうじ)や悪事を取り締まる任についているのは主に悪魔族であり、三大悪魔の一人、時を司る一族の現当主フェレウス・ファーロウその人なのだ。彼を筆頭にその他多数の悪魔たちは人間界の各地へ派遣され、特殊事件捜査部隊(SIU)と連携し日々の業務を担っている。 「あいつの治癒能力…致命傷に対して一分足らずで一気に回復させる力…あれはブエル以上だ…何者なんだ…」 (やはり、あの白銀の瞳が関係しているのか…?) フェレウスは横になっていた体をすくっと起こし、薄紫色の空に散りばめられている星々を眺めた。その後しばらくして、フェレウスはドットを召喚し、とある事を言いつける。 「はっ、かしこまりました、フェレウス様」 「頼んだぞ…」 夜風が吹き、髪が(なび)いた__。
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