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そして二人は、城の外へと出る。フェレウスの仕度が整うまでの間、城内の窓から外を眺めていたが、外に出て改めて敷地内を見渡してみると、そこはまるで異国の景色だった。城の入口を出てすぐ目の前には数千本の薔薇で作られている長い道があり、白を基調とした洋風の大きな噴水が合わせて四つもある。所々に悪魔と思わしき石像も飾らていて、もはや全てが豪華な造りだ。
「あ…あのぉ〜フェレウス様って…一体何者なんですか?もしかして魔界の一番偉い王様…とか…」
「一番ではないが、まぁ王族ではあるな。それがどうした?」
(えっ…?!き、聞いてないよそんなことっ…)
偉い立場の者なのだろうと言うことは何となく察していたが、まさか王族であるとは思わなかった。
しかし、どうやら彼にとってそれは、ごく普通の当たり前のことらしい。それほどまでに大事なことをさらっと言ってのけるあたり、一般庶民の立場からすればだいぶ感覚がずれている。確かに、彼を取り巻く環境や周りの者たちのフェレウスに対する態度などを改めて考えてみれば納得はいく。
「はぁ…そう、ですか…」
レミはあんぐりと口を開け、目をぱちぱちとしばたたせるしか出来なかった。
彼の後について暫く歩いていると、徐々に正門が見えてきた。通り抜けるかと思いきや、その手前でフェレウスの足が止まったので、それに合わせてレミも足を止める。
数秒ほど沈黙が流れた。
「あの…フェレウス...様?」
フェレウスはレミの方を振り返る。
「...お前に渡しておきたい物がある…手を出せ」
「えっ...?は、はい...」
レミは言われるがまま、何となく右手を差し出した。フェレウスはその手を取り、レミの手首に自身の手をそっとかざした。そしてまた、薄紫色の淡い光が放たれる。
(あっ...この光っ...!)
その眩しさについ目を瞑ってしまったが、しばらくしてからゆっくりと目を開けた。すると…手首には見たことのないバングルが付けられていたのだ。
「あ、あの…これは?」
「ラピスラズリとオニキスが練り込まれた物だ...まぁ、簡単に言えば魔除けみたいな物だ」
それは、銀製のバングルだった。本体にラピスラズリとオニキスの鉱石が練り込まれており、その色合いはまるで魔界の空のよう。所々がキラキラと光っていて、空に浮かぶ星々がそこに散りばめられているみたいだ。
「わぁ...綺麗…これを私に...?」
「今後もし、お前の身に何か起こった時は…そのバングルに想いを込めて、私の名を呼べ...」
バングルがきらりと光った。
「今回の事件にお前を巻き込むつもりは無かったが…守りきれなかった…すまない」
どこか暗い表情の彼。レミとは目線を合わせず、そのバングルをじっと見つめている。
「あ…謝らないで下さいっ...元はと言えば私が悪いんです、一人で何とかしなくちゃって…勝手に行動したからあんな事に…」
「あぁ、そうだな...それについてはちゃんと反省しろ」フェレウスはまた、ぶっきらぼうに言い放つ。
レミは頬をぷくっと膨らませて、フェレウスに反論しようとした。
「そんな言い方しなくてもっ...ひぃーゃないれふかっ...!」
しかし、膨れた頬を片手でぶにっと押し潰されてしまい、言葉にならない声が出てしまった。
「ふっ...お前はこのくらい不細工な方が丁度いい」
ほんの一瞬だが、彼の表情が緩んだのをレミは見落とさなかった。
「…辛気臭い顔をされると、調子が狂ってしまう…」
と、彼は小さくぼそりと呟く。
(フェレウス様って…こんな風に笑うんだ…)
ほんの少し、心が温かくなった。鳥の羽で擽られているような、ふわふわした気持ちになる。何故そのように感じてしまうのかは分からない。けれど今、この瞬間だけは、特別な時間だと思えた。
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