第八章 円満カイケツ

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この会社の社長、十和清太郎と俺の母、九重恭子は兄妹という関係だ。つまり母は株式会社TOWAの創業者一族の箱入り娘だった。 母は両親と兄に大層可愛がられ申し分のない結婚相手まで用意されていた。しかし母はたまたま仕事で屋敷に出入りしていた俺の父、九重浩輔と出逢い一目惚れしてしまった。 父も母の一途さに絆されふたりは熱烈な恋に落ちてしまった。 身分違いの恋が行きついたのが駆け落ちだった。父は仕事を止め、実家のある静岡に母を連れ、其処でふたりは結婚生活を送ることになった。 一方、娘の駆け落ちに激怒した母の父、つまり俺にとっての祖父は母を勘当し、完全に十和家と縁を切らせた。 しかし母を溺愛していた兄である清太郎だけは常に母のことを気に掛け、興信所を使い居場所を把握してから常に遠くから見守っていた。 やがて月日が経ち、俺が大学進学で上京すると清太郎が俺に初めて直接接触して来た。 『おぉぉぉ! 間近で見ると益々恭子に似ている! 童顔なのはあの忌々しい男の血筋かっ! しかし恭子の面影がこんなに色濃く~~はぁぁぁ、いい、いいぞ~~!!』 『……』 初めて対面した伯父はただの気持ち悪いおっさんだった。しかし母の実家のことをその時初めて知った俺は叔父の話を夢中になって訊いていた。 そして伯父の母に対する気持ち、十和家の祖父の本当の想いというのを滔々と訊かされ、ある目的が俺の中で芽生えた。
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