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「しかし……あの佐東杏奈が恭輔の彼女とはなぁ」
「ご存知なんですか、彼女のこと」
「まぁ色んな意味で有名だからな。あれ程の女をものにするとは流石オレの甥っ子だ」
「そこを褒められても余り嬉しくないですが」
「佐東杏奈も男を見る目があったということだ。実に喜ばしいことだ。仲良くやれ。貢のことはオレがちゃんとする」
「ありがとうございます、伯父さん」
深々とお辞儀をすると続けて頭上から声が降って来る。
「だから恭輔、頼むから貢を見捨てないでやってくれ」
「……」
「出来の悪い息子かも知れないが根は素直ないい男なはずだから。どうか陰日向となってあいつを導いてやってくれんか」
「またえらく無茶な要求をしますね」
「頼む! 恭輔と貢、同い年のいとこ同士仲良く我が社を盛り立てて行ってくれ!」
「それは貢の更生次第ですね」
「あぁ、その点は任せろ! ちゃんと言い訊かせておくからな」
そういって伯父は拳でドンッと胸を叩き咽ていた。
(まぁ、利害が一致すれば協力しないでもないかな)
そんな事を考えながら叔父との話を終え社長室を後にした。
庶務課に戻ると杏奈が少し不安げな表情で俺を迎えてくれた。
「あ、おかえりなさい」
「ただいまです」
「あの……大丈夫、だった?」
「え」
「…その」
「……」
きっと杏奈は貢との件がどうなったのか気にしているのだろうとその表情から分かり過ぎるほどに分かってしまう。
(あぁ、早く安心させてまたいつもの蕩けるような笑顔が見たい)
「九重くん?」
しばらく考え込み黙ってしまっていた俺の顔を覗き込んだ杏奈に向かって笑顔を向けた。
「はい、無事に解決しました」
「……そう」
俺の言葉を受けて少しだけ柔和になった顔だったがまだ少しの不安が窺えた。
杏奈の心からの笑顔を欲した俺は今まで言えなかった事情を全て話そうと思ったのだった。
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