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その日の夜、恭輔の家で夕ご飯を食べながら訊かされた話が私をフリーズさせた。
「おーい、杏奈?」
「……」
「杏奈さーん」
「………はっ!」
緩く揺さぶられ我に返る。
「大丈夫?」
「え……えぇ……。ちょっと……いえ、かなり驚いてしまって」
「うん……ごめんね、黙っていて」
「それはいいんだけど……」
(いやいや、驚いたわよ!)
まさか恭輔が社長の甥で一橋さんといとこで……
(というか恭輔のお母さんが創業者一族のお嬢さんだったとは!)
連休に会った時の会話を思い出して胸が高鳴った。
『えぇ、お父さんとはね、出逢ってすぐに恋してすぐに結婚しちゃったから』
『わたしが若かったってこともあったんだろうけど、とにかく親兄弟に猛反対されてね。お父さんと一緒になるには駆け落ちするしかなかったの』
あの時交わされた会話の奥には壮大な物語があったのだと思うとドキドキしてしまって仕方がない。
「そういえばお母さんは恭輔が実家の会社に就職したこと、知っているの?」
「知っているよ。ただ俺が母さんの実家のこととか知らないと思っているから敢えて何も言わないけど」
「そうなんだ」
(恭輔のお母さんの中では完全に実家とは関係ないことだと割り切っているんだ)
「そういう訳だからもう貢に関することで杏奈が悩むことはないからね」
「……うん」
「本当にだよ。俺は会社を辞めないし、貢ももう杏奈に手を出してこないから」
「うん」
恭輔のひと言ひと言が色んなことで凝り固まっていた心を解して行った。
「安心した?」
「うん……安心した」
私は恭輔に心からの笑顔を向けた。
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